聖者の聖誕
朝起きると、宮殿に居た。聖者と化すのはまだだったようだ。隣に寝ていたはずの神崎さんは既に起床しており、部屋の調理場で朝食を作ってくれているようだった。俺は調理場にいる彼女に「おはよう」と声をかける。彼女は返事をしてくれたようだ。それから間もなく朝食を頂く。これもまた手の込んだ美味しいものであり、料理の腕に感心するばかりであった。
朝食を終えると皇帝に渡されたシャツなどに着替える。そして皇帝を訪ねた。
「俺は今日これから何してればいいんだ?」
無礼だとは判っていても口調が直せない。更にこれから聖者になるという事実がそれに拍車をかけている。
「確か…狂虚に向かう必要がある。今から行くぞ。聖者候補が生まれた地では、その地の神が降臨することになっているからな。」
どうやら狂虚の絶景に神が降りるらしい。さぞ神々しい景色になるだろう。まぁ元々が神々しい景色だからな、致し方無い。俺は急いで装備を揃えて持ってくる。神が降りてくるので、依代が必要らしい。今回は俺の装備を依代としてもらう。支度ができたころに皇帝は馬車に乗って俺を待っていた。俺は跳んで馬車に乗った。
狂虚に着いたのはそう遅くなかった。きっと昼頃であろう。狂虚の中心にある神殿へと向かい、依代の準備を始める。祭壇の頂上に剣、中段に鎧とフォールド、下段にグリーヴを置き、それぞれを魔力で満たした。それから祭壇の各部には聖油を注いで聖火を灯した。準備を終えると同席する人々を呼び、各々が席に着く。全員が座ったことを確認して、皇帝が大きな声で開式を告げる。すると祭壇に神が降りてくる。今まで知らなかった神だ。黒に近いショートボブの髪、紅い左眼と邪気に満たされ原型を保てなくなったような右眼、そして異質な翼と大鎌を携えた神。これが狂虚の神なのだろう。神々しい景色には似つかわしくないような邪悪極まりない姿と神力を備えていた。これを見て、立会人は
「おぉ…狂虚に住まいし武の神、不知火狂華命よ!!!」
などと、感嘆の声を上げる。どうやらこの神は、武神不知火狂華というらしい。神降ろしが終わり、次に俺が武神に指名されて祭壇の前にある陣の中に入る。配置につくと武神は、
「貴様がこの地の魔を狩りし聖者か、はたまた愚者か…我が戦鎌アダマスの祝福を受けよ!」
と言い放った。その武神の戦鎌には邪な目が埋め込まれており、武神の放つ言葉に呼応するかのように煌々と輝きだした。時間が経つにつれてその邪眼は輝きを増し、あっという間にその光は俺を囲むようにして円を描く。直後、光に包まれた。その光の中では武神が戦鎌を掲げて立っており俺に何かを語りかけていたが、何を言っていたかは分からなかった。しかし、最後にははっきりと
「迎え入れよう、聖者よ。」
と言っていた。どうやら俺は聖者になったらしい。そして儀式の途中から記憶を無くしており。
気がつくと、全く知らない場所にいた。
どうも、noizeです。
この話においては、違和感をいつもより働かせて書いてみました。違和感を感じた方がいれば幸いです。