罪人の烙印
罪を犯した者は戦線に立った。剣を振るった。魔法を放った。そして死んだ。
その家族は罪を継承し、償い、聖者となった。
皇帝はそれをどうするだろうか。
俺は煌界出身の17歳、健全な少年だと思う。現在は皇帝に呼ばれて煌界の王都に来ている。恐らくは罪を課せられるのだろう。何もしていないというのにな。やっと皇帝の住む宮殿に着いた頃には既に日が西に傾き始めていた。門前には皇帝に仕えていると思しき傭兵が4人、俺を待っていた。
「名を教えて頂けますか?」
どうやらここでは丁寧に接するように教育されているようだ。俺は素直に
「琴霞です。」
と答える。この世界で琴霞という苗字を持つのは俺だけなので、傭兵達は皇帝が呼び出している人物が俺だということを理解したようだ。
「皇帝様がお呼びです、こちらへどうぞ。」
言われるがままについてゆくと、そこには皇帝と、奇妙なコートを纏った目付きの悪い青年が立っていた。
「お前、罪を犯したそうだな。」
青年に声をかけられた。俺は一切罪には関わっていなかったのだが、皇帝は青年の情報だけを信用しているのか俺が罪人と断定されてしまった。
ふとした拍子、あの青年のことを思い出した。俺は一度、会ったことがある。その時は確か、先程とは違い、真紅の眼をしていた。あれはおそらく、異能の力を使っていたのだろう。でなければこの世界で眼の色が変化することはありえないからだ。では、どのような力を使ったのだろうか。少なくともこの件、そしてこの世界の中枢に関係する能力だと推測される。となればある程度の検討がつく。「生死」・「罪」・「魔力」・「神」のいずれかに干渉する能力の可能性が異常に高いものとして扱えばこの件の解決に近づくであろう。そう信じて深い眠りに就いたときには、宮殿の地下牢に入れられていた。
朝起きると、皇帝から戦線派遣の令を下された。派遣先は狂虚と呼ばれる神への信仰心が強く悪鬼が蔓延る激戦の地だった。半日で準備を済ませて狂虚へと向かうと、激戦の地と云われていることすら忘れてしまうような、人の言葉では到底敵わない絶景が広がっていた。
まずは戦線の拠点に荷物を置き、お偉いさんに挨拶をする。そして手続きを済ませて戦闘に参加したのは午後7時、敵の姿もあまり見えないくらいには暗くなっていた。剣を振り回し、傷ついた味方を回復させる。難しい仕事ではないが、相手は人類ではない。魔物なのだ。さらには下等種族なので人語も理解しない。非常に消耗が激しく、罪人の犯したものの重みを十二分に感じさせられた。