王女、手を差し延べる
しまった、データが飛んだ……
ラスト近くまで書いたというのに……
王女ティアナは退屈していた。
両親に無理を言って士官学校に通い、「事実上」軍の幹部になることはできた。それだけ聞けばは順風満帆だと言えるだろう。だが問題は他にあった。
士官学校に通うため王女としてではなく一般の一人だと思ってくれと言ったが、世間はそうはいかない。秘密裏に王女と接触し王家とのパイプを繋ごうと暗躍する者、王女だから節操があってはならないと特段厳しくしない教官、挙句の果てに王女と肉体関係を結んで出世しようとする者までいた。
徐々に王女はそれらを行う者を嫌い、遠ざかっていった。そうすると集団から外れるわけで集団から外れた者に構う者はそうそういない。ましては、自分から近づいて欲しくないわけだから。
そういう訳で彼女は協調性が取れないという理由で軍の幹部としての肩書きだけつけられ住居である城にいるが、何も刺激はなくただ惰性に過ごすだけで退屈していた。
「あの時もう少し許容してればよかったのかな……。でもあの人達なんだか生理的に受け付けないから、うん、しょうがないか。」
ティアナは退屈の原因を考え、後悔しながら歩いていた。最近は考え事をする時、いつも夜中に歩き回るという癖ができていて一度ではなく何度も従者に幽霊や物の怪だと間違われる時もあった。考える度に嫌な気持ちになるためそろそろ今日は寝ようかと部屋に戻ろうとしたがそうはいかなかった。
不審な人物を見かけたのである。
普段夜中に歩くような人は従者か、警護の人ぐらいだが彼らには制服があるため見分けがつくのだが今見つけた人物はそのような服を着ていなかった。
彼女は息を潜めゆっくりと不審者の近くの物陰まで向かった。
名だけの軍人と言ってもそれは相手側の都合である、技術は文句なしの最高点を叩き出しているのでここまでの動作に一切の無駄はなかった。
不審者はまず男性であった、背は平均的で頭髪は黒く均衡のとれた体型をしていた。
しかし、動きが奇妙だった。
何度も何度も拳を壁に叩きつけ、血が流れているのに続けているからである。彼女はそれがとても恐ろしかった。普通の侵入者などであったなら今すぐ無力化していただろうがそれが出来ないほどに恐れていた。
数刻の間、彼は壁を殴り続けていたが顔を拭うとその場にしゃがみこんで泣き出した。
ティアナは動けなかった。全く何が起こっているかわからないからだ。しかし、何処か惹かれる所があった。王女として国民の期待を預かるからだろうか、責任を持っているからだろうか。泣いているなら笑って欲しい、苦しいなら助けたい、そう感じた。
そしてまるでお伽噺でよく聞く女神のように彼女は手を差し延べた。
「大丈夫?何か辛いことでもあるの?」
相馬はまた状況が読めないでいた。
突然美少女が手を差し伸べてきて俺に心配している言葉を投げかけてきた。俺は流されるままに彼女の手を取り夜の城内を歩き回っていた。その最中、彼女は質問だったり、普通の昔話をいくつか俺にしてきた。
彼女はティアナというらしい。それ以上は言わなかったし俺も名前以上には聞かれなかったから尋ねなかった。
だが彼女は見るからに身分の良さそうな立ち振る舞いと軍服を身にまとっていたので貴族か何かなのだろうという風に感じた。彼女の容姿は美しい金髪をツインテールにして下の方に下げていた、軍服は真っ白で体のラインもよく見え全体的に引き締まっているようだった。また、落ち着いた耳にいい音で話すため俺は特に気に入らないということはなかった。
「あの、すみません、俺は先ほどこの城に部屋を借りて……。そろそろ部屋にいないと騒ぎになり兼ねないと思うので向かってもいいですか。」
ティアナは鳩に豆鉄砲を受けたような顔をすると
「あ、えっと、そうだったの。ごめんなさい色々連れ回して……。」
「いや、断らなかったのは俺だから気にしないでください。ですが道がわからなくなってしまって……。」
「それなら任せて!ここは私の庭みたいなものだから、何処か教えてくれる?」
彼女はそういって笑いながら俺の手を引いた。少し心が晴れたような気がする。