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勇者、大変遺憾である

銀行の預金が尽きた。

理由は至極単純。お金を使ったからである。

まず第一に、家屋の賃貸だ。敷金礼金に各種保険料などで相当な額が飛んでいった。

次に、衣類の新調だ。去年までは高校生だった俺は学校が制服制の上に、外出もほとんどしなかったため私服を持ってはいたが数はなかった。それで良かったのは去年までで今年からは大学生だ。大学に高校の制服で行くわけにもいかないし、友達付き合いなどもあるだろう。

そして最後に、交通費だ。電車やバスはこの地域では自分の足と同義だ、と友人に説明されたため、定期を購入したがこれもまとめ買いである。値段はそれなりにした。

これらの買い物をここ一週間で行ったため、貯金がなくなったのである。

「お年玉貯めててよかったな……。母さんが別枠で口座を作ってくれてなかったらなくなっていたかもな。」

そんな些細なことに感謝しつつ桜田相馬は買い物袋を両手に持ちながら歩き、そう長くはかからないうちにマンションの一室に着いた。

そして、鍵を開け中に入ると……。

そこは既に別の場所だった。



「「え?」」

俺ともう一人、目の前にいる髭の生えた見るからに身分の良さそうな中年の男性は頓狂な声をあげた。

その後、ゆっくりと辺りを見回すが全然状況が読めなかった。

「お、おおっ!よくぞいらっしゃったゆ、勇者殿!其方には……。」

何故かそこで口ごもるお爺さん、そして俺が勇者と呼ばれたのも謎だがこれらよりも疑問なことがあったのでちょうどいいと思い質問をした。

「あの、なんで皆さんお酒を飲んでいるんですか?」



話を聞くと、徐々に理解すると同時に怒りが奥底から湧いてきた。

俺が呼び出された経緯を説明すると、王様と官僚貴族達は酒盛りをしていたらしい。貴族はこういった催しを開くことが仕事のようなものだと過去に聞いたこともあるし普通なのだろう。そこまでは普通だったのだ。そこまでは……。

王様はつい最近国の書庫から勇者を召喚する儀式についての本を見つけた、と口にしたらしい。そうすると貴族連中達は酒で頭がぼやけていたのだろう、それをやりましょうと王様に妄言を吐いたそうだ。それに乗せられた王様は駄目で元々と思いながらもやってみるかと行ったらしい。

そして俺が来た、と。

一言言わせてもらいたい、ふざけるな。酔っ払っていたから、成功しないと思っていたからなんていうことは一切言い訳にならない。この召喚は強制的で片道切符、王達のおふざけで俺はよくわからない土地に拉致られたわけだ。

「……つまりこういう訳なんじゃ、許してくれ。」

そう言うと王様は頭を下げ俺に謝罪をしてきた。

「すいません……。今許すとか許さないとか考える余裕がないです、だから出来ることならどこか一室借りられないでしょうか。」

「うむ、承知した。従者よ、ソーマ殿をお連れしてくれ。」

「はい、王様。ソーマ様此方へどうぞ。」

俺は従者に連れられ宴会場を後にした。



「すいません、後は道だけ教えてもらえませんか。」

どれだけ歩いただろうか、よくわからないが彼は従者に訪ねた。

「構いませんが……なぜです?」

「一人にさせて欲しいじゃだめですか?」

従者の人、何歳ぐらいだろうか。17か18ぐらいの女性に見えるが思慮分別を持っていそうな落ち着いた人だった。

「わかりました、道順は……」


従者の人と別れた後、廊下の角を曲がった時に俺は思い切り拳を壁にぶつけた。

骨が砕けたような音が気にせず何度も壁に叩きつける。

許せなかった、今までの努力が水の泡だと思ったり家族に二度と会えないのが嫌だと思いそれを壁に叩きつける。

謝られても彼らにはわからないはずだ、こんな気持ちは。

手から血がだらだらと流れ出す。

視界がぼやけてくる、怪我をしていない方の手で目をこするも治らない、さらにその手は濡れていた。

「ああ……俺泣いてるのか……。」

俺はその場にへたり込み、声にならない嗚咽を続けた。



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