第2話 魔王と鬼畜な召喚者達 -4-
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あ、わざわざ人族の全ての召喚者に判るように言ったよ。
「「「団長!!!!」」」
その途端に、今まで訳が解からず拘束され呆然としていた集団から、殺気が立ち上ってくる。
「ん。もちろん、ワザとだよ。てへぺろ。」
くそ。可愛くないわ!
『お前たちは、抵抗しないのか?』
「「「そ、それが、拘束されていて!」」」
『そうか。では、これでどうだ!その男を殺せば、我が元の世界に連れて帰ってやろうぞ!』
ピクリとも動かなかった集団が、オラ魔王様が拘束を解いたのだろう。その場にしばらく、蹲っていたが立ち上がると団長に向かってにじり寄りだした。
「やはり悪魔だ!お前らは、悪魔に唆されているぞ!このままでは、地獄に落ちるしか道はないぞ!」
男は、最後の望みなのだろう。そう叫んでいた。
『悪魔は、お前だろう。魔族と人族と対した違いはない。少し魔力が多くて外見が違うだけだぞ。呼吸もすれば、食べ物を得なくては生きていけない。それに人族に生まれ落ちるものが多いしな。悪いことをすれば地獄に落ちるし、良いことをすれば天国にだって行けるぞ。』
今まで、いったいどれだけの人族の偏見や差別にさらされてきたのだろうこの人は。彼も人間なんだ。
「それは、その人間が悪魔と契約したからだ!」
きっと、人族の宗教かなにかでそう教えられているのね。だが、周りの人間たちは、だれも聞いていない。ジリジリと男に近づいていく。
そして、目の前で魔法による戦いが開始された。私は、すぐ近くにあるソファにオラ魔王様を引っ張り込んだ。ここは、万が一の時のために結界が張ってある。壁などと同様に属性魔法は、結界に遮られて霧散するのである。
「なんだ。ラブロマンスでもするのか?我には、嫁も子供も居るんだ。あ~れ~、やめて~。って叫ぼうか?」
私は、無言で結界の外に押しだそうとする。
「冗談だ。冗談だったば。わかったから、もう言わないぃ!」
オラ魔王様は、ソファにチョコンと大きな身体を縮めて座っている。
魔法戦は、一進一退を続けている。意外にもこの男は、強いようだ。流石に団長と呼ばれる男だけのことはあるということなのだろう。そして、誰も剣を持っていなかったせいか。死者は、出なかったが屍累々といった状況で辛うじて、あの男だけ立っている状態となった。
まずい。まさか、10対1で生き残るほど強いとは、だがこの男もMPをほとんど使い切ってしまったようでこのままでは、他の10名を生贄に帰還することは、できない。まずい。だから、仕方がないか。
私は、広域治癒魔法の中威力版を唱える。これは、HPの3割を戻す魔法で通常の広域治癒魔法に比べるとHPを戻す量が3倍多いのだ。
「さあ、第2ラウンド開始よ。」
そして、あっさり片が付く。それは、そうだろう。全員のHPが3割を少し超えた状態でMPがほとんど枯渇した状態なのだ。肉弾戦になるのだ。10対1では、圧倒的に面白みが掛ける結果となった。
いや、ある意味面白かったのかもしれない。口に出しては、いえないようなことまで、行われたのだ。いくら、強くても数人掛りで押さえつければ、全く身動きが取れない。股間を含め、急所という急所を痛めつけていくのだ。
隣のオラ魔王様なんか。痛めつけられる度、目を見開いて、ビクビクッとしている。股間は、痛いと聞く。オラ魔王様にも、股間を痛めつけられた経験があるのだろう。まあ私には、わからない痛みだが・・・。
始めは、叫ばず痛みを必死に堪えていた男だったが、しまいには、モデルルームは、阿鼻叫喚ルームになった。
まあ、防音もしっかりしているし、外からは見えない様にマジックミラーになっているので問題はないのだが・・・。
・・・・・・・
隣からトントンと叩かれる。同じようなリンチの繰り返しでなかなか死ななくて、つまらなくなって、寝てしまったようだ。
『終ったようだぞ。寝るなよ。全くこの女は・・・。しかし、なぜ、彼らを助けた?』
オラ魔王様は、少し不満そうに言う。心を読んでいたなら、知っているだろうに。私は、あらかじめ用意してあった答えを言う。
「そこの男には、MPポーションを渡したからね。それと同じだけの援助をしただけよ。」
綺麗な答えを用意してあったのだが、先ほど寝てしまったことで台無しにしてしまった感じがある。まあいいか。
『それならば良い。では、行くか。』
「ちょっと、待ってよ。アレを放っておかないで!」
オラ魔王様の意地悪の一環なのか。男の死体を放って帰られてしまっては、面倒なことになる。相手が死んでしまっている以上、反転魔法陣の巻き戻しもできない。
『ああ、悪い悪い。これでいいか?』
男の死体がサイコロ状に切り刻まれた上で、その一つ一つが黒ずんでいき。最後には、それらが燃え上がって炭化してしまった。これならば、ちりとりで集めてそこらに撒いてしまえば証拠隠滅は、簡単だ。
しかし、流石に魔王だ。こんな無属性魔法が使えるとは。マトモに戦ったら絶対に負ける。
「大丈夫だ。こんな面白いことに巻き込んでくれた茶飲み友達と戦ったりしない。それに、その魔法は、生きているものには、使えないから安心していい。また来るから、それまでにあった面白い話を茶でも飲みながら聞かせてくれ!」
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それから『暇になった』と言いながら、ぶらりとオラ魔王様がやってくるようになった。いや、マジでウザイ。でも邪険に追い返すわけにもいかない。だから、お茶を出してここにやってくる召喚者の話を聞いて帰っていく。というのを暫く続けた。
「また。来たのか?手土産も持たずに来る客なんぞ。知らん。」
それでも、いろいろと忙しいときに来られたときに文句を言ったところ。いくらかの金貨や異世界の美味しいものを持参してくるようになった。
やはり、向こうの世界でも金のほうが希少金属で価値が高いらしい。それを錬金術でプラチナに変換すれば、多少の小遣いになるのだ。普通は刻印の無いプラチナは買取が難しいが社長が貴金属買取ショップを営んでいるので問題ない。
しかし、ますます、このマンションから外に出にくくなった。完全に引きこもり状態だ。いくら、オラ魔王様が優しくても魔族の国に召喚されるのは御免こうむる。
ちなみに、連れて帰った召喚者たちは、一生奴隷として生きることになるそうだ。
あの戦いで勝てなかったことで使えないと判断されたらしい。まあ、奴隷といっても使用人みたいなもので、人族の奴隷のように殺してもほとんど罪に問われないようなものでは無い制度なのだそうだ。
人族よりも人道的というのも変な話だ。
《第2話完》
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