第12話 魅惑のバーゲンセール -1-
お読み頂きましてありがとうございます。
はぁー、困った。
残り物には福があるって、誰が言ったか知らないけれど、これはどう考えても売れ残りだ。絶対に普通の召喚者なら、欲しいと思わない人材だ。
いっその事、バーゲンセールのようにタダ同然で持っていって貰うのがいいのかもしれない。
私は、渚佑子。千葉で生まれ育った18歳。でも、昼間はマンションの管理人をやっている。
普通は、マンションの管理人と言えば、中年のパートのおばさんか、管理会社に就職した男性社員がなる。じゃ、どうして私が管理人をやっているかというと、ちょっと事情がある。
私は、異世界に召喚されやすい人間らしい。しかも高校受験・大検試験・就職面接といった大事な時にばかり、召喚されている。
幸運だったのは3度とも元の世界に戻ってこれたことと、異世界で大賢者と呼ばれるほど魔法が使えるようになったこと。
そして最も幸運だったのは、3度目の召喚に巻き込んでしまった面接官の社長に出会え、そのまま就職させてもらえたこと。
その後も幾度となく召喚され続けているのだが、その度に解呪魔法で跳ね除けている。ただこの世界では、MPはほとんど回復しない。異世界なら一晩で回復したものが1ヶ月もかかる。
つまり、解呪魔法は連発できない。しかも、寝ている間に召喚されることもありうる。
そんな窮状を聞きつけた就職先の社長のご好意により、反転魔法陣の上に建てられたマンションの管理人をやらせて頂いている。
このマンションの分譲スペースは完売なのだが、モデルルームは、目と鼻の先に建てられたままになっている。
私を召喚しようとする召喚者は、反転魔法陣で逆にこの世界に飛ばされてくる。そしてその到着場所が、このモデルルームになるようにしてある。
私にはこのマンションの管理人であると共に、このモデルルームにやってくる召喚者を排除する役割があるのです。
ピンポーン。
あのチャイムの音は、モデルルームに付けられたセンサーの音だわ。
今日もどこか異世界の召喚者がやってきたみたい。さあ、仕事、仕事。
◆◆◆◆◆◆◆
「ナンと良いタイミングなんでしょう。今日は貴方にとってラッキーデーですわよ。」
召喚したはずが、いきなり違う場所に放り出されて、さらにこんなことを言われて面食らわない人間がいるだろうか、いや居ないはずだ。
しかも、なんと召喚者は魔族だったのだ。生贄を使ったのか、魔王本人が膨大な魔力で召喚したのか、だが、そんなことは、どうでもいい。
「今なら1人を選んでもらうと、オマケで2人お付けできます。さらにお気にめしたら、もう3人お付けできます。」
「あのう、優秀な人材1人で良いんだけど・・・。」
気の弱そうな魔族だ。これは、押し付けがいがありそうだ。
「エントリーナンバー1番、人間社会が嫌いなA君は、きっと魔族社会に溶け込むのも一瞬、どんな弱い存在の人族でもあっさりと手にかけること請け合い。さあ、どうです。」
そう、実は、異世界召喚でも魔族に召喚されたいという人物が最近、余りにも多すぎるので、これを機会に全て押し付けてしまえという話である。
そこに颯爽とA君が飛び出す。
「もちろん、魔改造は了解済み、できれば人間の大量虐殺の出来る能力が希望だそうです。」
本人は中肉中背の大人しいタイプの人間だ。だが中に秘めたる人格は、いつ犯罪に踏み出してもおかしくないものになっている。
ここで売れ残ってしまうと下校時の小学生を襲って血祭りにあげ、一躍時のひとになるだろう。それが、そのギラギラとした瞳に現れている。
魔族の召喚者は何かを言いたそうな目で私のほうへ向く。
「お買い上げ、ありがとうございます。」
なにか違うことを言うつもりだったのかも知れないが無理矢理押し付けるのに成功する。
・・・・・・・
「エントリーナンバー2番は、女性が苦手なB君だ。ゲイでもある彼は、あらゆる手段を使い、人間の男を落とすのが得意。」
颯爽と踊るようにして出てきたB君は、怪しいクネクネダンスを披露する。
「魔改造の希望は淫魔を希望、あらゆる男性を虜にして、魔界のトップを目指したいそうです。」
魔族の召喚者は、何か助けを求めるような視線を送ってくる。
「お買い上げありがとうございます。」
・・・・・・・
「エントリーナンバー3番、特定の種族に対する憎しみを日々募らせているC君、彼は日夜、その種族に関するネットニュースを探し、24時間働ける人材。」
おどろおどろしいバックを背負った人物が出てくる。目は落ち窪み、ヒゲはボウボウ。だがその眼光の鋭さだけは、誰にも負けていない。
「C君にある種族に対して憎しみを一度植え付ければ、何十倍、何百倍の憎しみとなって攻撃することは、間違いない相手を擁護するような生き物への徹底攻撃が得意です。」
魔族の召喚者は、もう諦めの表情だ。
「A君お買い上げ頂いたのでC君無料サービス、おめでとうございます。」
《つづく》
続いていいのだろうか・・・(汗)




