第10話 管理人・渚佑子の日常 -3-
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「さあ、嫌がらせをすると言うなら、ここから飛び降りてみなさいよ。」
私は、警備員室から名四店の店長である吉崎氏を連れ、『転移』でこのマンションの本当の屋上に来ている。
周囲には柵もなにもない。
給水搭などの設備も階下のスーパー銭湯に備え付けられ、ただ、一面コンクリートの屋根があるだけだ。
吉崎氏には、ああ言ったが実際には、このマンションから飛び降りることはできないようになっている。
マンションの周囲を覆うように設置された風の魔法陣の効果が本領を発揮して、勢いよく飛び出したとしても、マンション内に押し戻すようにできている。
全くあの社長は、いろんなことを想定してこのマンションを建てたようだ。
きっと、爆弾が降って来ても、このマンションだけは傷1つなく建っているに違いない。
「マスコミもこぞって、ヤオへー店長抗議の自殺って記事を書いてくれるでしょうよ。」
私は、吉崎氏に近づいていく。
「や、やめてくれ。なんでも言うから。」
「な、なに?やだ、もしかして、漏らしてるの?」
吉崎氏のズボンに黒いシミができあがっている。
キモイので念のため、『洗浄』魔法で吉崎氏の身体と洋服を洗いあげる。
もちろん、洋服は勝手に乾燥までされる。
異世界には、お風呂という概念が無かったから、何度と無くお世話になった魔法だ。
私は、自分自身に肉体強化の支援魔法を掛けると『箱』からロープを取り出す。
こんなことに使うのは、勿体無いがミスリルとオリハルコンを繊維状にしたロープを吉崎氏に巻きつけ、専用の留め具で固定する。
宇宙エレベーター計画に使われる予定で作成した試作品の1つで、宇宙エレベーター用に採用されなかったが、柔軟性が高くどれだけキツク人の身体に巻きつけても跡が残らないところを気に入って使っている。
そのロープの端を自分の手首に軽く巻きつけ、『フライ』を唱える。
これから、吉崎氏とこのマンションの上空をランデブーだ。
ここは、航空機は通らないので安心なのだが、時折、新聞社のヘリコプターが通ることが気をつける必要がある。
まあ、見られたとしても、目の錯覚で終ってしまうだろうけど・・・。
・・・・・・・
マンションの上空を吉崎氏が気絶するまで10分ほど飛び回り、モデルルームへ連れ込むとロープを柱に結わいつける。
実は、明日、例のMMORPGのプロモーションビデオの撮影があるのだ。
今度のアップデートでは、これまでコントロールし難かった、『ファイアボール』『ウォータボール』『ウインドボール』があるスキルを取ることでコントロールできるようになるらしい。
直角に曲がったり、ボールのサイズを圧縮し、小さくすることで当たり判定は犠牲になるがダメージを上げられたりするらしい。
その為の練習を、吉崎氏という的で行おうというのだ。
もちろん、殺しはしない。
間違って怪我を与えても、『治癒』魔法もあるし問題ないだろう。
それに今回は、事前に練習用としてレアのMPポーションを沢山、社長より戴いているのだ。
初めは悲鳴を上げたり、止めてくれるように懇願していた吉崎氏だったが、何度と無くコントロールミスして当てたり、気絶しても『ウォータボール』の練習に切り替え、水を浴びせ強制的に起きてもらったりしていたら、いつのまにか、悲鳴も上げなくなってしまった。
ただ、まだ怖いのか、『ファイアボール』の行き先だけは、目で追ってしまっている。
・・・・・・・
散々、モデルルームで明日のPVの練習をして、警備員室に戻り、安田さんに外から鍵を開けてもらう。
ここは、犯罪者を一時的に軟禁できるように窓もなければドアは外から鍵をかけると内からは空けれない仕組みになっているのだ。
吉崎氏が何を訴えようとも、絶対的なアリバイが成立しているというわけだ。
この後、吉崎氏がどうなったかと言うと大出世を遂げることになる。
彼が言うには、社長に抵抗している社員は、私が想定していた人数よりも大幅に多いらしい。
各店舗の店長・副店長クラスのみならず、仕入れ担当や本社の管理部門までありとあらゆる部門に存在するらしい。
彼は、私の子飼いの部下となり、社長に抵抗していたヤオへーの社員に対して業務上背任問えるだけの証拠を揃えさせた上で、彼を取締役の末席に据え、リストラ担当重役という重要な役目を与えることになっている。
実際に彼は良くやってくれて、各店舗の店長・副店長クラスから業務上背任で懲戒免職どころか被害額の何割かを返納させた。
また、自らの提案でZiphone子会社との株式交換による上場廃止を行うことで本社管理部門のリストラにも着手した。
その際に別のZiphone子会社のクレジットカード推進のため、旧株主に対する2%優待カードを発行した時に元々両社の株を持っていた株主に対する嫌がらせが発覚したが、いち早く気付いた彼が長期保有株主に対して優待とは別に商品券を贈呈することで事なきを得た。
この件に関しては、巧妙に仕組まれた本社管理部門の嫌がらせで、ヤオへー単独で持っていた旧株主は得をして、Ziphone子会社の株も持っていたヤオへーの旧株主は、優待カードを使用することで損をする仕組みだったのだ。
ただ、会計時に必ず発覚するものだったため、Ziphone子会社の株を持つこれらの株主たちが株を売ることで株価の下落を狙ったものだった。
これらの功績と他の社員の恨みを買うリストラが終了すれば、Ziphoneグループ各社の取締役を何社か渡り歩き、十分な実績を詰めれば、再びヤオへーの社長として戻ってくることになるらしい。
ただ、将来を約束したのが、あの大川COOだから、どこまで信用していいものか・・・。
《第10話完》




