第10話 管理人・渚佑子の日常 -1-
お読み頂きましてありがとうございます。
今回は趣向が違います。
番外編に近いと思います(笑)
私は、このマンションの管理人だ。
このマンションはただの高層マンションではない。
1・2階には、イギリスの有名百貨店ハロウヅの傘下になったスーパーヤオヘーが入っているし、3階にはレストラン街、4階は有名料亭、5階にはフィットネススタジオ、6階から10階までがウィークリーマンションになっており、11階以上が分譲マンションだ。
そして最上階には、スーパー銭湯まで併設されている。
ここには、日本三名泉の有馬温泉・草津温泉・下呂温泉から直接、空間を繋ぎ源泉をひき込んでいる。
社長は、日本三名泉で経営危機に陥っていた旅館を買い取り、建て直しを図った。その中で一番功を奏したのは、それぞれの温泉を相互利用することで他の旅館と差別化を図ったのだ。
初めは反感が強かったようだが、その旅館が各温泉地の中でもトップクラスの集客力を誇るようになるといくつもの身売り話から、温泉地の中で一大グループを構成していくと、そういった声も聞かれなくなった。
さらにそれぞれの旅館の人材交流を推し進めることで古き良き佇まいを残しながらも効率的な経営ができるようになった。
また、余ったその一部の人材が、温泉地とは違い、都心に近いこのマンションの最上階ではサービスに対する厳しさを体験することで、各旅館に戻ったときにサービスの中核の人物になれるように日夜頑張っているということだった。
これらの商業施設があるマンションの管理人とは、かなり大変である。
商業施設には、警備室が設けられているが、そのさらに上位の人間が管理人なのである。
ただマンションの出入りを監視するだけではない。
だが、ここは、アノ社長が建てたマンションだ。
いろんな仕掛けが施されている。
例えば、悪意を持ってこの敷地内に入ろうとすると混乱状態に陥ってしまう魔法陣が各入り口に施されている。
時折、駐車場の列に並んで立ち往生してしまう車が出て来たり、各入り口で混乱状態に陥った人間を警察に引き渡したりという仕事が発生するのだが、それらの混乱状態を治すのは、私しかできない仕事だ。
プルルプルル。
警備室からだわ。いったいなにがあったのかしら。
「はい。管理人室。」
ちょうど、管理人室に戻ってきていた私は、内線電話を取りあげる。
「渚佑子さん、よかった。今、スーパーヤオヘーの従業員口で例の症状が出ている人間が居りまして、至急来ていただけませんかね。」
警備主任の安田さんだ。
社長が昔世話になったとかで、別のスーパーから高給で引き抜いた人材だ。
元警察官という話だが、普段は気のいいおっちゃんだ。
そのスーパーにあった貴金属買取ショップにアルバイトに入っていた時代には、よくお世話になったものだ。
その貴金属買取ショップもこちらのスーパーにも入っている。
従業員口か。
これは社長が言っていた例の件だな。
スーパーヤオヘーは、数十年前には日本を代表する流通業トップとして、Jリーグのオーナーになるほどの力で君臨していたがそのトップとしてのプライドが時代の流れについていけず、さらに改革途中で創業者たる豪徳寺会長が病に倒れ、急速に衰退していった企業だ。
例の旅館同様、世界の携帯電話会社の1・2位の規模を誇るZiphoneに持ち込まれた案件だ。
いまやZiphoneの後継者にも指名されているうちの社長も流通には明るくないこともあり、二の足を踏んでいたところだったのだが、国の整理機構が無理矢理押し付けていったという経緯がある。
初めは資本提携という形で資金提供を行っていたのが裏目にでたのか、流通業トップだったという今ではクソみたいなプライドの従業員が多かったせいなのか。
金は出してもいいが、口を出すなという姿勢がみえみえになっていたことから、同じく資金を提供していた商社からも見放され、山田ホールディングスの連結子会社というところまで、落ちているのだ。
子会社ということで、うちの会社から経営トップの総入れ替えを強行し、トップ人事だけは豪徳寺会長の愛娘を付けることで従業員側の了解も取り付けたのだった。
そして今は株式の半分以上をイギリスのアルドバラン公爵家が持つ、有名百貨店のハロウヅが引き受け、一見するとその傘下に入ったように見えるが実質的に指導監督を行っているのは、うちの会社だ。
だが、大部分の従業員の了解は、得たがそれでも反発する人間が居ることには代わりは無かったのだ。
こういう人間は、どこにでも居るらしく自分の店舗の利益を減らしてまで、親会社としての山田ホールディングスに嫌がらせをする。
1つの例を上げると山田ホールディングスの子会社が製造するプライベートプランド商品を置くことで有名メーカー製の商品よりも多くの利益が出るという一般的な施策に対し。
そんな商品に対して、わざわざ人を使って株主総会で不味いと言わせてみたり、わざとプライベートブランド商品の真横に利益ゼロで安い価格の有名メーカー製の目玉商品を置いたりするのだ。
このマンションのスーパーは、うちの社長の肝いりで行われ、スーパーヤオヘーの店長の中でも改革に積極的である人間に任せ、スーパーヤオヘーの利益の大部分を叩き出している。
そんなスーパーヤオヘーの従業員のボーナスを1店舗で出している店舗に対して、嫌がらせを行う従業員が居るらしいというのだ。
これを許しておけば、将来、山田ホールディングスの社員である私のボーナスへ直接響いてくるに違いない。
これは許されざることに違いない。
《つづく》
うーん、「守銭奴・渚佑子の日常」のほうがよかったかな?




