第1話 ロリータ王女の召喚者 -2-
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「それで、貴女はどうしたいの?」
私は、王女に向かって聞いてみた。本当は、彼女のような、何も力を持たない人間だったら、モデルルームの外にほっぽり出して終わりなのだが、流石に小さな子供すぎる。
施設に預けるにしても、社長に報告して指示を待つにしても、異世界に送り戻すにしても相手の希望を聞いてみないことには、わからない。
そう実は、相手を送り返す方法があるのだ。
それも2通り。
まず1つ目は、召喚者が召喚魔法とセットになった送還魔法を使う方法。そして、私が反転魔法陣にMPを投入して、巻き戻しを行う方法である。
前者はこの場で送還魔法を行うだけで良い。後者の方法は、私がMPを最大MPの約8割を使わなくてはならず、このMPで社長から請負っている金をプラチナに変換する錬金術を行い、小遣いを稼いでいる私にとっては、できれば使いたくない手段である。
ちなみにこの錬金術、地殻中の存在量に合わせ相対的に増えるという一見質量保存の法則を無視しているかのような魔法だが、空気中の元素を取り込んでいるらしい。
「わ、わたし、賢者様に来ていただきたいのです。」
もちろん、送り返す時に手を繋げば、向こうの世界に行くこともできるが、それでは、本末転倒だ。
こんな自分でも面倒だと思う人間にいろいろと便宜を図ってくれる社長の好意を踏みにじることになってしまう。どんなに恨まれてもそれだけは、絶対にしないつもりである。
「無理よ。」
「そ、そんなぁ。でも、お姉さまたちが・・・。」
彼女が語ったところによると、この召喚魔法を行うには、王族が犠牲にならなくてはいけないらしい。今回、生贄となったのは、彼女のすぐ上のお姉さんたちである。第5王女と第6王女の2人だったというのである。
バカなことを。
「大丈夫です。彼女たちは、死んでいません。」
「本当ですかぁ。」
彼女の顔がパァっと明るくなる。
この事は、本当である。犠牲者が必要な召喚魔法の場合、反転魔法陣の作用により、その犠牲者の主である人物が犠牲者と成り代わるのである。この場合、おそらく親である国王なのだが・・・。
私がそれを告げると明るくなった顔に翳りが帯びる。だが、それほどではないようだ。まあ、国王が決断したことで自分の姉たちが犠牲になるところだったのだから、不信感だらけだったに違いない。
「貴女は、元の場所に戻りたい?」
「い、いいえ。父が犠牲になって死んだとなれば、帰っても待っているのは、死罪か。良くて死ぬまで幽閉です。それにあんな国に帰りたくありません。」
凄い不信感を持っていたのだろう。今までのオドオドした態度から一変して、彼女はきっぱりと言い放った。
おそらく、犠牲が伴うのであれば、セットになっている送還魔法も無いに違いない。それはどうしても送還魔法分の犠牲が必要になるからだ。
・・・・・・・
結局、社長に相談することとなった。迷子として警察に届けて保護してもらうことも考えたのだが、異世界人は、国籍もない。
保護者が何年も現れなければ国から仮の国籍を与えられるのだが、その間ずっと施設暮らしになってしまう。流石に可哀想になったのだ。
とりあえず、マンションの賃貸スペースにつれていく。
マンションの下層は、ウィークリータイプになっており、住人の出入りが激しい。そして、急に用立ててほしいと無茶を言う顧客が多く常に1~2室は確保してある。
そんな1室に彼女を連れて行ったのである。もちろん、家具など一式部屋に付いているタイプなのでそのまま住むことができる。
「ありがとう。お姉ちゃん。」
その後、その子がどうなったかと言うと、彼女は、子役タレントとして頑張って自活している。
始めはこちらの言葉が喋れなかったので苦労していたようだが、私がひらがなを教えていたところ、むこうの言葉との共通点をみつけて、一気に片言だが喋れるようになった。
私は、1回目の召喚の際に神様に貰ったチートで言葉に苦労しなかったのだが、反転魔法陣に能力を付与するような機能はない。
そして、社長が彼女の養子縁組先をみつけてきた。彼女にぴったりな英国貴族だという。
外見が白い髪に碧眼だったこともあり、全く違和感がなく生活しているらしい。
その後、社長がコネを持つ携帯電話会社のCM子役として、抜擢したところ、もともと持っていた王女としてのオーラなのだろう。あっという間にトップスターの座に駆け上がっていったのだ。
最近は、ドラマにバラエティに才能を遺憾なく発揮し、テレビに映画にとひっぱりだこ。私のことは、本当の姉のように慕ってくれているようで、トップスターになっても、ときおり顔を出してくれる。
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異世界では、今回の召喚を企てた国王が死んだことで意外な事実が判明していた。
国王が魔国からの和睦の親書を握りつぶしていたことが判明し、魔国が平和を望んでいたことが伝わったのだ。
国王が本当に愛していた側室やその息子が魔人に殺されたことに憤り、個人的感情のもと隣国から押し付けられた側室の娘達を使い、召喚を企てたことが判明したのだ。
生贄にされたはずの第5王女、第6王女は、生きており魔法が使われたことで国王が死んだ後、国王の側近たちに一時期幽閉されることとなった。
しかし、国王の企みが表に出たことで、『王都・ビクター』が人族を束ねる求心力を失ったため、側近たちは更迭されたのだ。
彼女たちは、側近から実権を奪い取った貴族たちの手によって急遽、女王と宰相の役目を与えられ、なんとか人族はバラバラにならずにすんだらしい。
《第1話完》
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