第7話 召喚の対象は悪役令嬢 -1-
お読み頂きましてありがとうございます。
「幾らなんでも、話が旨すぎるでしょう。それは。」
・・・・・・・
私は、渚佑子。千葉で生まれ育った18歳。でも、昼間はマンションの管理人をやっている。
普通は、マンションの管理人と言えば、中年のパートのおばさんか、管理会社に就職した男性社員がなる。じゃ、どうして私が管理人をやっているかというと、ちょっと事情がある。
私は、異世界に召喚されやすい人間らしい。しかも高校受験・大検試験・就職面接といった大事な時にばかり、召喚されている。
幸運だったのは3度とも元の世界に戻ってこれたことと、異世界で大賢者と呼ばれるほど魔法が使えるようになったこと。
そして最も幸運だったのは、3度目の召喚に巻き込んでしまった面接官の社長に出会え、そのまま就職させてもらえたこと。
その後も幾度となく召喚され続けているのだが、その度に解呪魔法で跳ね除けている。ただこの世界では、MPはほとんど回復しない。異世界なら一晩で回復したものが1ヶ月もかかる。
つまり、解呪魔法は連発できない。しかも、寝ている間に召喚されることもありうる。
そんな窮状を聞きつけた就職先の社長のご好意により、反転魔法陣の上に建てられたマンションの管理人をやらせて頂いている。
このマンションの分譲スペースは完売なのだが、モデルルームは、目と鼻の先に建てられたままになっている。
私を召喚しようとする召喚者は、反転魔法陣で逆にこの世界に飛ばされてくる。そしてその到着場所が、このモデルルームになるようにしてある。
私にはこのマンションの管理人であると共に、このモデルルームにやってくる召喚者を排除する役割があるのです。
ピンポーン。
あのチャイムの音は、モデルルームに付けられたセンサーの音だわ。
今日もどこか異世界の召喚者がやってきたみたい。さあ、仕事、仕事。
◆◆◆◆◆◆◆
目の前に居る召喚者が言った条件は、余りにも旨すぎる条件だった。
私は勇者として魔王を討つためでもなく。賢者として内政に知恵を働かせるわけでもなく、攻めてきている隣国を迎い撃つための兵器としての役割でもなく、公爵家令嬢として迎えいれたいという話だった。
しかも、年の頃ぴったりのイケメンの王子の婚約者が待っているという。写し鏡という魔道具で見せられた姿は、ブサイクでもブタでも無い本当のイケメンで筋骨隆々ということは無い程度に鍛えられた肉体も持つ人物が写っていた。
余りにも怪しい過ぎるでしょう。
これは、本心を問いただす必要があるに違いない。私は、読心の魔法陣にMPを投入した。
「本当に公爵令嬢なのですか?」
「ええ、アラン公爵家は、初代ロキシネス国王の第5子アラン様に対し、王都に隣接した肥沃な領地を有する300年以上も続く名家です。あいにく、現当主にはお子様が居られないことから分家筋から養子を取ろうとしており、その養女として貴女さまをお迎えいたしたいのです。」
読心の魔法陣から聞こえてくる内容と寸分違わない内容が召喚者の口から発せられた。まさか、本当なのだろうか?
「その王子の婚約者というのは?」
「ええ、本当ですとも。」
(ただ、王子には好きな人が別にいますけどね。)
どうやら、裏がありそうでホッとする。
「王子には、好きな方は居られないのですか?」
「そうですね。王妃に相応しいご身分を持つ方には、居られません。」
(王子の好きな方は、辺境の騎士の娘。王子が王太子としてこの国を継承するかぎり、この方を王妃に迎えることは、ありえない。しかも、あの娘も余りの身分差に尻込みしている様子だったからな。こうでもしないと進展しないに違いない。)
どうやら、召喚者の知り合いの彼女と敬愛する王子をくっつけるために、国内にはそこまで強いキャラの人間が居ないため適任者を召喚しようという話らしい。
さらに話を伺っていくとその身分差ゆえか特定のライバルがいないせいか王子の恋心も女性の恋心も燃えないのだそうだ。ソコへ、公爵令嬢で婚約者という一石を投じて、恋心を燃え上がらせたいらしい。
「どうして、私なのでしょう?」
「お美しいご令嬢であるという条件で召喚させて頂きました。」
(他に自分のモノに固執する守銭奴的な性格とか、より彼らを燃え上がらせるためにサディズム的な性格の持ち主とかツリ目だとか、最後にそういった邪魔をする行為がバレる。どこか抜けている性格とかあったけど、言わないほうがいいだろう。)
つまり私は、悪役に相応しい条件で選ばれたという訳だ。
そうかよ。
悪役令嬢だとぉ。
ああ、そうでしょうとも。解かってるわ。
どうせわたしゃ守銭奴だよ。
ドSだよ。
乙女ゲームをやっていても、悪役にヌルイって呟いてしまうくらいだからな。
解かった。
それならば、相応しい人物を紹介しようじゃないか。
《つづく》
すみません。また紹介モノになってしまいました。




