第5話 召喚者への人材紹介所 -3-
お読み頂きましてありがとうございます。
お待たせして申し訳ありません。
今回、第3話で異世界から若返って帰還した主人公の幼馴染が再登場します。
「ちょっと、待ったぁ!!」
私は振り向くとモデルルームの扉を開けて小学生くらいの子供が入ってくるところだった。しまった!ジョウノウチさんが来た後で扉の鍵を閉めるのを忘れてしまったらしい。
「えっと、僕?迷子なの?勝手に入ってきちゃダメでしょ。」
もう最近の子供は物怖じしないな。後でしっかり親に叱って貰わなくては・・・。
「おいおい。俺のことを忘れたって言うのかよ!勇哉だよ。武者小路勇哉だ!」
ああ、そういえば勇哉っていま小学生だったけ。帝国が攻めてきた時に私という協力者を得るため、召喚者の寿命が減るという召喚魔法を勇哉が使いが反転魔法陣で召喚者の勇哉が若返ったんだよな。
理解はできるし、目の前で見て認識することはするんだがどうも、同い年の勇哉しか覚えられないんだよね。きっと次、会ってもわからないと思う。
「それで勇哉君どうされたんですか?」
だからなんとなく君付けで呼んでみる。
「聞いたぞ!渚佑子、いま異世界行きの斡旋をしているんだろ!俺を売ってくれよ!」
気付いていないみたい。まあそういう子だし仕方がないよね。
「人聞きが悪いですね。私は人身売買に手を染めていませんよ。ただ異世界に来て欲しい人に異世界に行きたい人を紹介をしているだけです。」
「ごめん。謝るからな、紹介してくれよ!俺は異世界に行きたいんだ。」
おやおや、あの勇哉が謝っているよ。どういう心境の変化だろう。子供のころから、どんな悪戯をしても謝らなかったあの勇哉が・・・。
「はあ、ええとですね。いまだと21人待ちですね。」
私は手帳に記載されている30名ほどの内、引きこもりのコミュ障を除く人の人数を言う。8歳の勇哉じゃ即戦力になりえないので最下位だ。
「なんだよ!いまそこに居る人は、異世界人なんだろ。いいじゃねぇか。渚佑子と俺との仲だろ。いま紹介してくれよ!」
出たよ。もう此処までくるとウザイな。もしかするとこのままでは、これから何度もこんなことがあるのか?
「そういえばどうして、いまここに異世界人が居ることを知ったのですか?」
「それはよ。この魔道具に反応があったからで。これ凄いんだぜ。半径100KM以内で空間魔法が使われるとわかるんだ。それにこっちは、回数限定だけど転移ができるシロモノだ。」
勇哉は自慢げに言う。金貨や剣、鎧などは取り上げられたと聞いてたけど、他にもこんなモノを持っていたんだな。
確かダンジョンを攻略したときに戦利品にそんなモノがあった気がしたけどあまり使い道が無くて仕舞いこんでいたんだよね。
これは仕方が無いな。こんなのに一生付きまとわれたら正直困る。それならば異世界に行ってもらったほうがいいかもしれない。
・・・・・・・
「というわけで、お二方のどちらを選ばれても、この子をオマケで付けます。もし必要なければ放り出して頂いても構わないですから、引き取って貰えませんかね。いまは能力を失っていますが過去には魔王も討伐した経験を持つ勇者ですから、うまく育てれば戦士くらいはできるでしょう。」
「はい。わかりました。」
わりとあっさりと引き受けてくれるみたい。まあ相手の希望でなくても人材不足みたいだから、どんな人間でもいいみたいだな。
「勇哉は、あくまでオマケだからね。他の人を困らせるようなことをしちゃダメよ。わかった?」
「ああ、わかったよ。わかったってば、もう・・・。ガキじゃねぇんだから、そんなに言わなくてもわかってるって。」
ガキの姿の勇哉に言われてもな。まあいいか。めんどくさいし。いくらなんでも今回の異世界トリップは前回とは違い主人公にはなれないってことくらい解かっているだろう。
勇哉の場合、預けられる先で控えめに生き続ければ、過去の経験から戦士としての才能は確実に花開くはずだ。
結局、2人共選ばれ勇哉を入れ4人で異世界送還をすることになった。
今回の召喚の理由は内政問題なのだそうだ。いま召喚者の王国では戦争には勝ったものの政ができる人材が不足しており、特に農業と税金に関する制度を作り上げることが急務になっているらしい。
サトウさんは、農業畜産系の大学を出られたがその技術を使えそうな会社に入れなかったので異世界でこの技術を生かしたいと思っていると面談のときに仰られていたので、今回紹介させて頂いた。
ジョウノウチさんは、外国の大学で税務に関する資格まで取得したが、一般常識問題が苦手で日本での資格試験に悉く落ちて家事手伝いというプーをやっていたらしい。だが税金に関する知識は中世ヨーロッパから現代まで全て解かっているということで、今回紹介させて頂いた。
農業や税務以外の分野も人が足りないということだったので、勇哉が活躍できるところもあるだろう。
まあ本人が希望しているんだし、まあいいと思う。というかそこまで責任持てない。他の異世界に行きたい人からすると酷い横入りなので十分に優遇したと言えるだろう。
「では万が一、彼らが上手くそちらの召喚場所に到着できなかった場合を考えて、当座の資金を渡してあげてください。」
あくまで万が一で考慮しなくてもいいかもしれないが。無一文で放り出される可能性があるよりはまだマシであろう。
金貨が3枚ずつ渡される。向こうでは金貨1枚で1ヶ月ほど暮らせるらしい。
「ではこちらが私から渡す餞別です。まずコモンのHPポーションとMPポーションが5本ずつ。そして、この指輪を渡しておきます。」
指輪は4大属性魔法を訓練するモノで指輪を回すことで『炎』『水』『風』『雷』が表示される。それぞれ強く『出ろ』と思考するだけで『灯』『コップ1杯の水』『一陣の風』『電撃ショック』が発生するモノなのである。
これにより魔法を使ったことの無いこちらの世界の人間にも魔法を使えるようにし、訓練する魔道具なのである。
この餞別をサトウさんとジョウノウチさんに渡す。勇哉は、簡単な日常魔法なら使い方も解かっているから必要ないだろう。
そこから30分ほど掛けて指輪の使い方と訓練の仕方をレクチャーした。
「それでは、行ってらっしゃいませ。サトウ様。」
「ああ、行ってくるよ。すまないけど、荷物の処分はよろしく頼む。」
彼らの荷物は失踪者として業者が処分することになる。ウィークリーマンションでは、次の期間の契約ができなくなると僅かな荷物を残して失踪してしまう人間が後を絶たないため、珍しくない。今回のケースも同じように扱われる。その為の資金も事前に預かっている。
「それでは、行ってらっしゃいませ。ジョウノウチ様。」
「長い間ありがとう。渚佑子。貴女のことは忘れないわ。」
ジョウノウチさんは、能力は高いが希望する範囲が狭く、ずっと売れ残っていたのだ。しかも、今回のように面接でしくじってしまうことも多々あったのだ。それでも自分のやり方を押し通すのだから凄い人だ。
「それでは、行ってらっしゃいませ。武者小路様。」
「うんうん。行ってくるわ。じゃあな。」
そう言って彼らは消えていった。
勇哉大丈夫かな・・・。
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異世界に到着したサトウさんとジョウノウチさんは、まず日本語が解かる召喚者の下で異世界の言語を覚え、それぞれの分野で王国に貢献し、晩年にはそれぞれ王国の閣僚クラスまで出世した。
だが勇哉は異世界に到着直後に「チートは?」「なんで神に会えない!」と召喚者に詰め寄ったばかりか、ジョウノウチさんが見せた僅かな隙に指輪を奪い取り逃げ出したのだ。
その後、王国の客分であるジョウノウチさんの持ち物を奪った罪で指名手配になった。結局、勇哉は捕まらず、何処かに逃げてしまった。
《第5話完》
勇哉が可哀想という感想を頂いたので勇哉の希望通り異世界に送り返してみました。
渚佑子も温情をかけたのに・・・(単に面倒だったという説も)
主人公気質が抜けなかったのか。チート慣れしたのか。
思いのほか早く完結しました。
『少年娼婦楽士・マムのおもてなし』
http://ncode.syosetu.com/n8787ci/
これからのストック次第ではもう少しペースを上げようと思っております。
とりあえず水曜日までお待ちください。




