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彼、彼女らの実力 2


 第二訓練場には第一コート、第二コート、第三コートと三つコートが存在し、訓練場を囲むように四つの縦型信号機のようなものが設置されている。その信号機のようなものは戦闘開始の合図に使われるもので、縦に青、青、青、赤の4つのランプがあるが、今はどのランプも消灯していた。また数分前までは第二訓練場にある三つのフィールドは梓とは違うクラスの人が使用していたが、戦闘が終わったため彼らはフィールド上から去り、観戦席に移動している。


 フィールドの一つに立つ梓とイリスとクリス。向かい側には麗華と沖と愛理。そして梓や麗華たちの両隣のフィールドには別のチームが武器を手に、これから始まる模擬戦を今か今かと待っていた。梓は軽く身体を伸ばしつつ、後ろにいる二人に声をかける。


「作戦はどうする?」

「せめてせめて攻めまくる」

「脳筋か」


 梓は振り返りながら、鋭いツッコミでクリスの戯言を切り捨てる。そして小さく息を吐き二人に向き直った。

「まぁイリスの戦闘を見るのは初めてだろう? 二人のことを知っている自分に言わせてもらえば前衛がクリス、中衛が自分、後衛がイリスだね。そうそう、お昼も言ったけど」


 梓はクリスの装備している篭手を指差した。

「クリスは見ての通り身体強化特化型、一応放出系の魔法も使えるけど誤爆が多いかな? 得意な魔法は火。そして自分のことは二人とも解ると思うけど東洋魔法も西洋魔法も微妙に使えるマルチ、魔法全般使えるけど得意な魔法は水。イリスは西洋魔法のスペシャリストで攻撃から回復まで何でもござれ。あと一部精霊魔法も使えるって感じかな? 得意なのは光だよね?」


「そうね、光だわ。あと対戦相手の事もお願い」

 梓はコクリと頷いて視線を対戦相手である麗華達のほうへ向ける。


「近衛さんは長刀を使った接近がメインだけど、印術を使っての中、後衛もできるオールラウンダーだね。西洋魔法もそれなりに使えるみたい。火と風をよく使うかな? 土御門さんは陰陽術のスペシャリストで式紙や護符を使った間接魔法が得意かな。あと回復も使えるみたいだよ」


 梓はイリスが頷くのを見て続きを話し始める。


「最後は沖。彼は魔力自体は大したことなく見えるけど、面白い組み合わせで魔法を発動させるから度肝抜かれる時があるね。あと護符で魔法陣を構築する事が多い土御門さんとは違って、沖はクナイや手で印を刻んで術を発動させることが多いかな? ああ、重要なこと忘れていた、彼は狼と契約しているから気をつけたほうがいい」


「っとおい梓、そろそろだ」

 教師の動きを見てクリスは小さく首を鳴らす。

「まぁ初めてのチームだし、皆様子見で来るはずでしょ、気楽にいこうよ」


 梓は軽く腕を振りながらクリスの後ろへ歩いて行く。梓の横ではイリスが身体を伸ばし、杖を持ち直していた。

 向かい側の麗華たちも同じように戦闘準備をしている。前から麗華、沖、愛理という順で並び、それぞれ武器を手に持っている。麗華は刃をつぶした長刀を、沖はクナイを、そして愛理は護符を数枚。


 それに対してクリスは篭手を、梓とイリスは杖を構える。

 梓たち三つのフィールド上のメンバーの準備が出来たのを見計らっていたのか、第二訓練場の一番右端に居た講師は、皆が構えたのを見て大きな声をだした。


「準備はいいかぁ? 始めるぞぉ!」

 講師は誰からも反対が無いことを確認して手元の端末を操作した。すると大きな機械音とこの会場四隅にある信号のようなランプの一番上が点燈する。続いて二つ目のランプが点燈し先ほどと同じ機械音が聞こえる。


 梓は魔力を練り上げ魔法陣を具現化させる準備をする。目の前のクリスも体中に魔力をめぐらせ、いつでも突撃できるような状態に、また梓の隣にいたイリスは身体中の魔力を活性化させていた。

「始まるわね」

「クリスは沖を最初に倒してほしいけど……多分近衛さんと当るね。頼むよ」


 三つ目のランプが点燈する。

「あいよ、じゃぁイリスちゃんのお手並み拝見だな」

「期待していいわ」


 そしてなんとなく耳に付く音を出しながら赤いランプが点灯した瞬間、フィールド上の生徒達は一斉に行動を始めた。


 梓達のフィールド上で真っ先に行動したのはクリスだ。彼は大地を蹴りフィールドを駆け一直線に沖へと突進する。またその後ろでは梓とイリスが魔法を使用する準備のため自身の魔力を活性化させていた。


 クリスは沖に向かって突撃したが、梓の予想通り沖の横から一人の女性が前に立ち、長刀を前に構えた。クリスは前に出てきた女性、麗華を倒さないと沖にたどり着けないことを悟ると、クリスはステップを踏み左右にフェイントをかけつつ麗華に突進する。


 沖の前に出た麗華はフィールド全体を見渡し、梓やイリスの位置を把握したのち、突進してくるクリスに向かって長刀を横なぎにはらった。横から来る高速の刃に、クリスは足を止めざるを得なかった。


「おいおい近衛ちゃん、あんなん食らったら真っ二つだぞ」

「安心して先は潰してあるわ」

「それなら場外ホームランで済みそうだなっと」


 物騒な会話をしながらも二人は手をとめたりはしない。麗華は長刀を斬り返し再度ふるう。それをクリスは後ろに飛んだり、横へ飛んだりで回避するも、彼は前に進むことは出来ず、むしろ押し戻される。クリスは押されている状況で内心冷や汗を掻いていた。


 クリスの接近戦はこの学園の中でも上位に来ると自負しているし、それは沖や梓達一般生徒も認めている。しかし上には上がいるもので、そのうちの一人が麗華だった。このままでは押し切られる。そう思った時だった。麗華とクリスの横を風のように通りぬける一人の女性……いや、男性がいた。


「頼んだぜ、梓」


--


 麗華の後方にいる沖は、自身から数メートル先の地面に魔法陣を具現化させていた。

「出てこい、銀」


 彼が自身の魔力を解き放つと、その魔法陣に銀色の粒が集まり、だんだんと光が強く、そして大きくなる。その光はある程度まで大きくなると、光の中心から二メートル以上ある大きさの白い狼が姿を現した。人間よりも大きいその狼は梓とイリスを見つめると、白い牙をむき出しにし大きく咆哮した。

「綺麗ね、もっふもふね」


 梓とイリスはクリスの少し後方で召喚された狼を見つめながら魔力を練っていた。白く艶のある美しい毛並み、白く鋭い牙が見え隠れする強靭なアゴ。彼女が思わず声を漏らしてしまうのも仕方ないなと梓は思っていた。それは彼も始めて見たときは彼女と同じような感想を持ったからだ。


「イリス、見とれるのはいいけど後にしてね、アイツ強いよ? 後アレ着ぐるみでもないし武装もしてないから」

「ええ、もちろん油断はしないわ」


 梓は走り出しクリスの横を通り過ぎ沖の前に来ると、魔法陣を具現化させる。すると辺りのマナが少しずつその魔法陣に集まり始め、だんだん魔法陣が青く光り輝く。


「マナよし、魔力との結合よし、座標よし、威力よし。いけっ」

 梓が杖をつきだすと魔法陣がひときわ大きく光り輝き、中心からバスケットボールぐらいの水球が七つ飛び出す。そして沖と彼の使い魔である銀に向かって一直線に飛んでいった。


「梓君にしては単調だね」

 沖と銀は水球をじっくりひきつけ、余裕を持って回避をするも、沖は大きな舌打ちをした。

 なんと梓は魔法を放ち終わると同時に、自身の魔力で身体を強化し、クリスの元に向かっていたのだった。そして麗華に向かって魔法陣を具現させ、水球を放った。


 麗華は長刀を振るい数歩クリスを下がらせると、自らに迫り来る水球を見つめながら長刀に魔力を込める。


「遅いですわ」


 麗華は魔力の籠もった長刀を水球に振るうと、麗華に飛んで行った水球は形を歪ませ弾け飛ぶ。沖の虚を突いて放った魔法が壊された梓であったが、彼の顔色に変化は無かった。

「ナイスだぜ、梓!」


 クリスにはその一瞬で良かった。梓が作った彼女の隙を見計らって、クリスは初めて自分自身の攻撃範囲に入ることができた。彼は拳に魔力を込め麗華に向かって拳を突き出す。


 麗華は迫り来る拳を顔色変えずに避けると、今度は足元を狙って払われた蹴りをかわす。そして距離を取ろうと後ろへ飛び下がるも、クリスはそれを追いかけ距離を取らせなかった。

「ストーカーは嫌われますわよ?」

「次近づける機会がくるかわかんねーしな!」

「ストーカーは否定しないのね」


 麗華は次々来るクリスの拳や蹴りをかわしたり、長刀でいなしながら魔力を練り始める。ジリ貧になってしまうことを懸念したのであろうか、クリスは体全体を循環させていた魔力を拳に集め、なんと自ら一歩下がり自分と麗華の攻撃範囲から抜けると、魔力をこめた拳を麗華に向かって振った。すると彼の拳から魔力の奔流が麗華に向かって飛んでいく。


 麗華は放たれた荒削りな奔流の大きさ、速さを見て避けられないことを悟り、自らの前に魔法陣を具現化させる。その魔法陣は、彼女は練っていた魔力と大気中のマナが結合し、緑色に輝いていた。

「風よ、迫り来る奔流よりわが身を守れ」


 麗華が魔法を発動させると、彼女の魔法陣から小さな竜巻のような風が生まれクリスの放った魔力の奔流をそのまま飲み込んだ。そして飲み込んだ竜巻はそのまままっすぐ、クリスに向かって飛んでいく。

 クリスは迫り来る暴風に向かって構えをとり、今度は先ほどよりも多くの魔力を拳に込める。


「うっしゃぁあああだらぁあああああぁぁぁあ」

 その暴風がクリスに直撃する瞬間、クリスは掛け声と共に拳を前に突き出した。荒れ狂う暴風の中心にクリスの攻撃が決まると同時に、彼の手から魔力が爆発し暴風を文字通り吹き飛ばす。そして小さなそよ風だけがクリスを通り抜けて行った。そんなクリスの姿を見て麗華はため息をついた。


「アナタの身体は本当に規格外ね」

「その分遠距離は苦手だがな」


 麗華は再度あきれたようにため息をつき、長刀で目の前の空間を切りつける。すると目の前に血のように赤い一本の線が彼女の目の前に浮かびあがった。その後も彼女は何度も長刀をふるい、空間を切りつける。するとその度に赤い線が一本また一本と浮かび上がっていき、だんだんと彼女の前に赤い文字が出来上がってゆく。それを見たクリスは大声で叫んだ。


「やっべぇ。手加減してねぇ……。おい、でかいの来るぞ」


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