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事件発生 7

「ごきげんよう」

 梓達の後ろから凛とした女性の声が聞こえ、梓は振り返る。


 美しい黒髪をなびかせ、笑顔で梓を見つめる一人の女性。混沌とした戦場に悠然と立つ彼女。その手にあるのは三条の薙刀。


「近衛さん!」


 麗華は長刀を振るうと、彼女の足元に魔法陣が出現する。そして詠唱を始めると辺りのマナが彼女に収束し彼女の魔力と共鳴する。そして彼女の周りに靄のように立ち込めた。


「燃えなさい!」


 彼女が言霊と共に魔法を発動させると、彼女を中心に幾重もの火の刃が四方八方に放たれ、それらはゴーレムたちに着弾する。それは辺りのゴーレム達に大きな傷をつけるも、倒しきることはできず、すぐに再生を始めていた。


「やぁやぁ、加勢に来たよ」

「沖っ」


 梓はすぐに体制を建て直しながら後ろに下がり、沖たちに合流する。

「みんなどうやってここに? あっちは……」

「ああ、あっちは生徒会に任せてきたよ」


「生徒会? 学校の警備じゃ?」

「いや、立華女学園の警護に行っていたらしいよ。あちらの学校から依頼が有ったみたいでね。そんで僕たちが暴れていたら、立華女学園を襲っていたゴーレムが急激に減って、不思議に思ったウチの生徒会が周辺捜索していたら僕たちとばったり、って感じかな。全部任せて逃げてきちゃった。ごめんね生徒会」


 付け足したように謝る沖であったが、全く悪いと思っていないようで、他人事のように笑っている。

「ちょっとーお二人さぁん。そんな事よりまずこの場をどうにかしようよ」


 梓と沖は愛理のほうを向いて頷く。愛理は護符で作られた弓を構えると、一枚の護符を取り出す。そして愛理がその護符に魔力を込めると、護符は白い矢へと変身した。愛理はその矢を引き絞ると、ゴーレムに向かって放った。


「ごめん、すぐ参戦するよ」

 梓と沖はすぐさま武器を構えると、それぞれゴーレムに向かって魔法を発動させた。


 クリスは梓を追い詰めていたゴーレムに拳を叩きつける最中だった。ゴーレムはクリスの攻撃で持っていた石の棍棒を落としたものの、それを拾おうとはせず、お返しとばかりに右腕からパンチを繰り出す。それに対しクリスは今まで纏っていた魔力の倍以上の魔力を腕に宿し、無詠唱で魔法を発動させる。クリスの腕に紅蓮の炎が纏わりつくと、その腕で目の前に迫りくるゴーレムの拳に正拳突きをした。


 自分の体以上の大きさの石の拳、比べて百分の一にも満たないクリスの拳が衝突する。

 辺りに巨大なトラックが壁に衝突したような轟音が辺りに響いた。

「クリスっ」


 梓は近くに居た別のゴーレムに魔法を放ちながら、切羽詰った声を上げる。クリスのいた場所には大きな砂ぼこりが舞い、現在彼がどんな状態であるのかは、その場にいた誰にも分からなかった。


 皆が息をのんで見守る中徐々に砂埃が晴れてくる。するとそこには拳を突き出したクリスと、腕が粉々になって立ちすくむゴーレムだった。そのゴーレムは凍ってしまったかのように、微動だにしない。そしてクリスは自分の拳を天高く突き上げのと同時に、ゴーレムはガラガラと音を立てて崩れ落ちる。


「みたかゴーレム! 俺の拳は世界一ぃぃぃ」

 そんなクリスの姿を見た一同は、ほっと息を吐く。沖と愛理はそんなクリスの元へ走り、身体を上から下まで見つめた。


「ああ、どうやらイカレてるのは彼の頭だけではなくて体もだったようだね。こんなに長い付き合いなのに気が付かなかったよ」

「沖ぃ、それはどういう意味だぁ?」

「ほーらほら。まだまだ来てるよ。ゆうもクリスも余所見しないしない」


 三人は言葉を交わしていると新たなゴーレムが三体前に立ちふさがる。その中真っ先に動き出したのは沖と銀だった。彼が印を刻みマナを集め始めると、銀は中央のゴーレムに飛びかかる。沖の横からはクリスが一番右側に居るゴーレムに向かって走り出す。更に後ろから愛理は左のゴーレムに矢を放つ。愛理の撃った矢は彼らの弱点である魔具、首に埋め込まれているネックレス型の魔具に向かって正確に飛んでいったが、ゴーレムは自分の腕を盾にして魔具を守った。愛理はその魔法が直撃した瞬間から、すぐさま次の魔法の準備を始める。


「詠唱終わったよ、足止めは僕に任せて」

 沖がそう言うと魔法陣の中から火の塊が飛び出し、クリスが相手にしているゴーレム以外に飛んでいく。しかしゴーレムたちは腕でそれを防御したため、大きなダメージを与えることは出来なかった。だがその魔法と入れ替わりに銀が鋭い爪でゴーレム二体を威嚇する。それを確認するや否や沖は次の詠唱を始めた。


 沖がゴーレム達の足止めしているとき、クリスは残る一体の目の前まで走っていた。

「食らいやがれ」


 クリスは目の前にいるゴーレムの弱点であろう、杖の魔具に向かって拳を突き出す。しかしゴーレムは自滅覚悟だったのか身体をわざと前に出すことで、クリスの攻撃場所を逸らす。そのためクリスの攻撃は右わき腹を抉るだけで、機能停止には持ち込む事はできなかった。既にわき腹の再生が始まっているゴーレムは、杖を持った手を振りかぶり振り下ろそうとする。しかしそれはクリスの後方から飛んできた一本の矢が阻止したことで、攻撃は行われなかった。


「敵の引き付けごくろうクリス、こいつら固いから貫く矢の準備にちょいと時間掛かりそうだし、もっと暴れちゃっていいよ」

 彼女は矢に相当魔力を込めたのだろう。彼女の放った矢はゴーレムの右手を吹き飛ばし、握っていた杖を地面に落とさせる。すると目の前のゴーレムは重力を思い出したかのように、身体を分解させながら地面に崩れていった。


 そんな様子を見て梓やイリスは、近くのゴーレムを屠りながら息をのんだ。

「すごい……完璧な連携だ」


 三人はまるで以心伝心しているかのように互いの動きを理解し、最適なところで最適な魔法を唱えていた。それは三人の一緒に居た年月、積み上げてきた絆を感じさせる連携。


 そんな三人がようやく三体のゴーレムを倒したときだった。ほっと息つく間もなく、彼らの全方から更に複数体のゴーレムが歩いてくる。しかもそのゴーレムはどこに魔具があるか解らないタイプのゴーレム。それを倒すのに時間が掛かかってしまうことは明白だった。


「っち、増えやがったよ。全部倒していたら時間食っちまうな……しかたねぇ」

 クリスは梓たちの方を振り向き大きく息を吸い込み叫んだ。

「あずさぁぁ、ここは任せろっ! お前達は先に行け」

 また彼の横からも大きな声が聞こえる。


「ここは僕達三人で十分だね」

「麗華にイリス、そっちは任せたよ」

 クリスたちの活躍をぼうっと彼らの活躍を見ていた梓は、ハッと我に帰りイリスと麗華に視線を合わせ、頷きあう。


「わかった、こっちはまかせて」

 梓たちは戦闘中の彼らに背を向け、ビルへ向かって走りだした。


-- 事件発生から九十五分経過 --


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