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事件発生 5


 日本にあるこの魔法学園は世界的に見てもトップを争うほどの学校である。そんな学校のセキュリティはもちろん盤石で、至る所に魔法や科学の最先端がふんだんに取り入れられていた。それは学園の門にある自動電磁魔力識別センサーや、立体映像装置、色んなところに点在する近距離転移陣等々。


 今、梓と麗華とイリスの前にあるこの学園を取り囲む壁も最先端の技術を取り入れられている。この壁の一番の特徴は音を通しにくいということだろう。いや、通さないというより壁が振動を打ち消しているのだ。壁の中にある反射の魔法陣が、周りから来る振動を感知すると、それと全く同じ振動を放つ。そのため振動は互いに相殺し音が外に漏れることはなくなる。またこの陣は直接的な打撃も同じように反射する事も出来る。そのため物理的に殴ることしかできないゴーレムたちはここを破壊することは難しかった。


 梓は辺りを見回すと、スマホを取り出し沖に電話をかける。すると門の上からクリス、そして沖の契約獣である銀に跨った沖と愛理が壁から降りてくる。それを見た梓はスマホを操作し通話を切った。

「上手くいったね」


 梓たちが作戦を練り、沖達に協力を依頼。快諾してもらい、いざ実行しようとしたところでいきなり問題が発生した。それは学園が緊急体制になっていた事で門が封鎖されていたのだ。そのため彼らは簡単に敷地外から出ることはできなかった。だがそれもいたしかたない。なぜなら教師は今やゴーレムだらけの危険地帯と化したこの街に、生徒たちを出すわけにはいかなかったのだ。梓たち六人が向かった南門には教師や風紀委員が目を光らせていた。


「まぁ普通に出られたけどね」


 しかし梓、麗華、イリスの三人にはなんでもなかった。なぜなら彼らはシルバー以上の魔法師だったからだ。彼らはカードを提示し、ゴーレム討伐に参加すると言って正面突破してきたのだ。だがブロンズである沖、愛理、クリスはそれができなかった。そのため仕方なく外からの誘導で上から壁を飛び越えていた。


「それよりもーウチは麗華やイリスはともかく、あずちゃんがシルバー持ちだったことに驚きだね。ウチらまだブロンズなのに」

 愛理は銀から飛び降り,梓たちの元へ近寄る。


「ああ、ドイツで試験合格していたからね」

 そう言って肩をすくめる梓を麗華はじっと見つめていた。その様子に気がついた愛理は麗華に声をかける。


「黙っちゃってどうしたの、麗華?」

「ううん、何でもないわ。それよりも早く作戦を実行しましょう。もうすでにゴーレムが発生してから七十五分経過しているわ」


「ひぇー残りは四十五分かよぉ。こりゃあ急がないとな」

「クリス? 分かっているとは思うけどその時間は最長だからね。儀式の時間は二時間以内なんだから」


 沖はクナイを手に取り、小さく印を刻みながらクリスに言った。

「わーってる、わーってる。んじゃま気合い入れますか!」

 クリスはそういうと右拳に付けたガントレットに魔力を込める。


「じゃぁ近衛さんたち、頼んだよ」

「任せなさい」


 麗華たちは頷きあうと魔力を活性化させ猛スピードで道路を駆けていく。麗華は長刀、愛理は札、沖はクナイ。それぞれと得意武器が握られていた。

「じゃぁ僕たちはコンビニで少しの間待機だ。行こう」


 梓たちも全身の魔力を活性化させ、身体能力を強化する。そして彼女たちと同じ方向に走り出した。

「それにしても、ぜんっぜん車も人も居ねぇのな」

「そうだね。事件が起きてしばらくたったし、大抵はこの場から逃げてしまったのかも」


「それか、もう連れ去られた後なのかもしれないわね」

 イリスの凍えるような一撃に梓とクリスは言葉を失う。


「空気を壊したのはわかっているわ。でも可能性としては高い。私たちはそれを頭に入れておくべき」


「ああもう! イリスちゃんはきっついなぁ! もちろんわーってるよ」

 一人前を先行して走る梓は何かに気がついたようで急に両手を広げ二人を静止させる。

「無駄話は終わりだ、来るよ!」

 すると家の陰から二体のゴーレムが姿を現す。そいつらは目立った所に魔具がないタイプのゴーレムだった。


「でやがったなコラァ」

 クリスは叫びながら足に送る魔力を強めると、一人単独で前に飛び出る。それを見た梓は驚きあきれながら口を開いた。


「ちょっとクリス。脳筋かっ!」

 梓とイリスはすぐに魔法陣を具現化させ詠唱を始める。

「イリスは左の頼んだよ。ウォーターボール!」


 梓は得意の水球魔法を唱えると、梓の魔法陣から七つの水球が現れ右側のゴーレムに襲いかかる。またそれとほぼ同時に、イリスの魔法陣から光の矢がもう一体のゴーレムへ飛んで行った。


 梓の放った水球は三発がかわされ、残り四発がそれぞれ着弾した。二つは腹に、一つは右足に。そして最後の一つは首に直撃する寸前、右手でかばったため右手に。


 またイリスの光の矢を受けたゴーレムは左足を引き飛ばし、威力衰えぬままコンクリートに突き刺さる。刺さった矢はやがてマナとなって待機中に消えた。二人の攻撃でダメージを受けたゴーレムたちはすぐにそこらにある塀やアスファルト、土を利用してゆっくり体を再生させる。


 残念なことに梓達二人の攻撃は、完全な機能停止には持ちこむことはできなかった。しかしクリスには練習試合での麗華と対面した時と同じように、隙が有ればよかった。


「さーて、ギアチェンジして行くぜっ」


 クリスは自らの拳に魔力を集めるとそれを一気に放出させる。その魔力の塊は右側のゴーレム、梓が水球で攻撃したゴーレムの頭に直撃した。するとゴーレムはゆっくりと地面に崩れていき、中心に小さな魔具を落とす。クリスは落ちた魔具、オレンジ社のソレから目を離すと、もう一体のゴーレムに視線を移した。しかし彼が視線を移した時にはすでにゴーレムは崩れている最中だった。


「さっすが梓だぜ」

「クリスもね、ってイリス、速いよ!」

 そう言って彼らは走り出す。すでにイリスは走り出していて、梓達の数メートル先を走っていた。


「ひえーイリスちゃん体力もあるのね」 

「さっさと行きましょう、時間は限られているわ」

「まぁ急いだ所で待機なのだけど。って、ちょっと!」


 梓は驚いて声を荒げる。イリスが走っている先には町中を流れる幅十メートルぐらいの小さな川が有るのだが、彼女は曲がる様子は全くなく、それどころか魔力を足に集中させ速度を上げていた。


 川まで二十メートル、十メートル、五メートル。それでも彼女は速度を落とさない。そしてガードレール直前で思いっきり踏み切った。


 唖然とする梓をしり目に、イリスは空中で一つの大きな魔法陣を具現化させた。その魔法陣は丁度彼女の魔後ろ、背中のあたりに浮かびあがる。イリスはその魔法陣を発動すると、空中で落花しつつあったイリスの体を、まるで風に乗ってしまったかのようにふわりと浮かび上がらせた。銀色の髪をなびかせ、空中を文字通り飛ぶ彼女は、まるで光の妖精である。イリスはそのまま反対側まで飛ぶと重力などなかったかのように、ふわりと地面に着地した。


「はっは~追い風を生み出したか。おーし着地も綺麗だからイリスちゃんには十点満点中九点あげるぜ。だが、しかしだ。俺の飛び込みはカッコいいぜ。


 クリスは大声でそう言うと二マリと笑って魔力を足に集め、走る速度を上げる。梓と同じ場所に居たはずの彼だったが、すでに梓との距離は数メートルほど離れていた。


「うおらぁぁあああああああ」

 クリスはまるで肉食獣の咆哮のような声を上げると、更に加速しながら川の近くまで行き地面を思いきり蹴った。猛スピードで突撃したクリスは空気を切り裂いて飛んでいく。


 イリスの跳躍を天使のようだとすればクリスの跳躍は野獣だった。単純なただただ力任せの跳躍。単純かつシンプルであったが、彼の荒々しい跳躍はある一線を超え逆に美しく魅せた。それは見るものを引きつけて離さない力強さ。現にイリスと梓の視線は釘づけになっている。


 そしてコンクリートをハンマーで叩いたような音を出しながら、クリスは地面に着地。しかし勢いが殺しきれず、何歩か足を前に出してしまった。

「九点ね」


「うーん厳しい、まぁ代わりに梓がカッコよく飛び越えてくれるさ」

「難易度上げないでくれるかな。普通に橋渡るつもりだったんだけど」


 梓は川の前で踏み込むと、魔法陣を三つ川の上に浮かべる。そしひょいとその上を飛び越えた。梓がスタッとイリス達の前に飛び降りるとイリスは冷たい目で梓を見つめた。


「3点。普通、がっかりだわ」

「もううるさいなぁ、いいんだよ。じゃぁ行こう」

「ん、どうしたのクリス? 速く行こう?」


 梓は呆けているクリスに声をかけた。

「あ、ああ。そうだな行こう」

 それからは何事もなく彼らは待機場所であるコンビニに辿り着いた。


-- 事件発生から八十分経過 --


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