第75話
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優里のご主人は何もない部屋を見て呟いた。
「本当にいいんですか?」
「彼女が決めたことですから」
僕はご主人に頭を下げて部屋を出た。
優里から電話があって、僕はすぐにリダイヤルした。
『これから会えますか?』
「いいよ」
優里はアパートに帰って来ていると言った。僕はすぐに車を走らせた。部屋に着くと優里は正座して僕を待っていた。僕の顔を見た優里は柔らかな笑顔を見せてくれた。今まで見たこともない美しい笑顔だった。その時、僕はすべてを悟った。僕は優里の横に座って頷いた。
「私、貴志さんのことが好き」
「僕も優里のことが好きだよ」
優里が僕に体を預ける。どちらかともなく唇を重ねる。僕は優理を押し倒して横になる。優里が僕の股間を弄ぶ。
「最後だね」
「はい。よろしくお願いします」
僕は優里のシャツのボタンを一つずつ外していく…。
シャワーを浴びて着替えて来た優里はとてもきれいだった。
「変わらないのよ…」
「ん?」
「貴志さんは私の運命の人。そのことは変わらないの」
「それは違うよ」
「えっ?」
「優里が僕の運命の人なんだよ」
「貴志さん…」
優里が僕にしがみついて来た。まだ濡れた髪から甘い香りが漂ってくる。いつもの優里の香り。僕は優理を抱きしめた。強く、強く抱きしめた。
部屋を出た僕たちは握手をして別れた。優里は乗って来た自転車に、僕は車に。僕が車を出す。バックミラーに映ったオレンジ色の自転車がだんだん小さくなっていく…。




