第7話
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僕は彼女が独身なのだと思っていた。セミロングで薄く茶に染めた髪。キリッとした瞳には目力がある。それほど高くはないけれど、真っ直ぐに通った形のいい鼻。唇は薄めでアヒル口。程よく日焼けした肌は健康的で実年齢よりかなり若く見える。それは僕が後で彼女の年齢を聞いたからそう言えるのであって、その時は本当に見たままの年齢なのだろうと思っていた。
僕らはカウンター席に並んで座った。早い時間のためか他に客はいなかった。僕が目配せをすると、マスターは二人分の水割りを作り、厨房の中へ入って消えて行った。
「貴志さんは奥さんを愛してらっしゃるのね。奥さんが羨ましいわ」
僕の名前は安西貴志。連絡先を交換した際に名前も名乗っている。まあ、普通はそうだろう。
「ねえ…」
「はい」
「運命だと言ったね?」
「はい。私は貴志さんに出逢うために産まれて来たんだと思う」
「その出会いが運命だとしたら、相手の人が既に結婚しているのは変じゃないかい?」
「出会うのが少し遅かっただけです。私はもう決めました。元々、主人とはうまくいっていなかったので離婚を考えていましたから。そのタイミングで貴志さんに出逢えたのだから、まさに運命の出会いです」
今、彼女は何と言った?“主人”と言ったか?離婚するって?僕はそう言った彼女の顔をまじまじと見つめた。
「僕に、妻と別れて一緒になって欲しいとでも言うの?」
「はい。そうして欲しいです。すぐにとは言いません。でも、きっと、そうなるはずです」
「すごい自信だね」
「自信とかではないです。それが私たちの運命なんです」
運命の定義というのが何なのかはよく解からないけれど、これだけ自信満々に言われると、なんだかすごく納得してしまいそうになる。
この時は彼女の自信に圧倒されていたのだけれど、後になって考えるとボクが優里にあったのはやっぱり運命だったのかもしれない…。今はそう思い始めている。
更に驚いたのは彼女の年齢だった。僕は20代後半だと思っていた。
「35歳ですよ」
彼女は微笑みながらサラッと言ってのけた。