第66話
66.
優里の怪我は大したことがなく、すぐに退院することになった。そのこと自体は良かったのだけれど、大きな問題があった。
僕は優里の旦那さんに優里が退院した後のことを相談に行った。
「部屋を用意しました。狭いアパートですが、妻の記憶が戻るまでの間、安西さんが一緒に居て下さい」
優里の旦那さんが唐突に言った。
「ちょっと待って下さい。僕にも妻子が居るんですよ…」
「安西さん、それは余りにも身勝手じゃないですか?妻がこんな風になったのはあなたにも責任がある…。いや、あなたのせいでこうなったんだ!私も娘も今回の事でひどく傷ついた。あなただけが幸せな家庭の中でのほほんと暮らしていくのを私は決して許さない」
返す言葉がなかった。
家に帰ると菜穂子が映画のDVDを持って来た。
「これ、あなたが見たいって言ってたやつ。見る?」
「あ、うん」
「どうしたの…」
優里の旦那さんに言われたことを僕はずっと考えていた。だから、菜穂子の話にも上の空だった。
「そう言えばアオちゃん、怪我したんだって」
「あ、そうみたいだね」
「あら、知ってたんだ。まあ、当たり前か。お見舞いにも行ってるんでしょう?」
「うん、まあ…」
「それで、どうなの?」
「もう退院するって」
「そう、良かったじゃない。また一緒に遊べるものね」
「えっ?」
「いいのよ。アオちゃんのこと、好きなんでしょう?」
「いや…」
「バカね。あなたのことなんか何でもお見通しよ。何年あなたと一緒に暮らしていると思ってるの」
またしても、僕はなにも言えなくなった。




