第65話
65.
優里が襲われた三日後、犯人が逮捕された。先日、事情を聞かれた刑事から連絡が入った。犯人は横井義輝。優里と同じ学校のPTA役員だ。何となくそうではないかという予感はしていた。
最近は優里からも彼の話は出なくなった。もう、優里には付きまとってはいないのだろうと思っていた。けれど、事件が起きて真っ先に思い浮かんだのは彼の顔だった。
山本さんに聞いたその日のPTAの会合に横井も来ていたらしい。刑事はその時の当事者全員から話を聞いたと言う。当然、横井が優里に執拗に絡んでいたという話も伝えられたはずだ。彼が犯人だとすれば、捕まるのは時間の問題だった。
その日、PTAの会合の後、例によって飲みに行ったらしい。メンバーは優里に横井、山本さんに和夫、そして、その他に3人ほど女性の役員が居たらしい。飲み会は11時過ぎにお開きになった。和夫がカラオケに行こうと誘ったのだけれど、優里と横井はそのまま帰ったらしい。
横井は無理やり優里を別の店に連れて行った。優里は仕方なく付き合ったらしい。横井は初めのうちこそ普通に世間話などを楽しそうに話していたのだけれど、いつしか優里のことを責めるような態度になっていった。当然、二人は言い争いになった。店の店員もそのように証言したと言う。途中で優里が席を立つと、横井も後を追って店を出ようとした。支払いをしていなかったので店員が横井を呼びとめた。支払いを済ませて横井が店を出た時には優里の姿は見当たらなかった。
優里と横井が店を出たのは深夜の1時前だったらしい。
優里は一旦、帰宅しかけたけれど、途中で貴志に電話を掛けた。ちょうどその時に横井が優里に追いついて、電話をしている優里の背後でその内容を聞いていたらしい。当然、横井は優里に電話の相手は誰かと問い詰めた。優里がしらを切ったので横井は頭にきて優里の手を取って無理やり人気のないところへ連れ込んだらしい。
そこでもしばらくの間、言い争いをしていたのだけれど、優里が横井を振り切って逃げだした。横井は優理を追いかけて殴りかかったのだそうだ。優里が道端に倒れて動かなくなったので横井は怖くなって逃げ出したと言う。
明け方、通りかかった新聞配達の青年が110番通報したらしい。
優里の記憶は未だに戻らないままだ。医者の話では極端な恐怖により、自分にとっていちばん安心できる記憶以外を排除することで自分を守ろうとしているのだと言う。
「貴志さん、結婚式はしなくてもいいよ。一緒にお役所に行って籍だけ入れようね」
そう言って優里は無邪気に笑った。




