第6話
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僕は携帯を耳に当てたまま煙草を取り出し、火を点けた。このテラスは喫煙所でもある。それから話の続きを促した。優里が旦那に嘘の理由を告げた後、旦那がどうしたのかを。
「他の男と一緒にタクシーを降りたのはおかしいって…」
「そうだね。旦那さんは冷静だね。優里はそれについてなんて言ったの?」
「その飲み友達は私以外にも何人かお金を持って来てくれそうな人に連絡をしたみたいで、偶然彼もそうだったって。タクシーを拾おうと思って交差点で会って。じゃあ、一緒に行こうってことになって…。そんな感じ」
「なかなかだね。つじつまは合っているね。でも、朝帰りしたことはどう説明したの?」
「そのことは聞かれなかったのよ。私が帰った時にはまだみんな寝ていたから、多分、帰った時間は判らなかったのだと思う」
「そう…。それはラッキーだったね。でも、これからは少し気を付けようね」
話を聞いてもらったことで優里はかなり落ち着いたようだった。
「まだあるんです…。実は私、付き合いの古い飲み友達が居るんですけど、彼が疑っているみたいで…」
「疑うって、何を?」
「私が浮気しているんじゃないかと…」
「うーん…。その話はまたゆっくり…。そろそろ仕事に戻らないと」
「あっ!ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「いいよ。時間がある時はいくらでも聞いてあげるから。また今度ゆっくりね」
電話を切って時刻を確認すると、30分以上彼女と話していたことが判った。まあ、いいか。
話は前後するけれど、彼女との出会いが運命だったなんて実感は僕にはあまりなかったように思う。あの時、連絡先を交換したけれど、自分から連絡をする気にはならなかった。連絡があったのは彼女の方からだった。
「週末に時間が取れるので会って欲しいです」
「週末?特に用事があるわけではないからいいよ」
「どこかあまり人目に付かないところはありますか?」
人目に付かないところって…。僕は何となく彼女の意図が解かった。僕たちが住んでいるこの町は地元意識が強い。僕はこの町に住んで長いけれど、ここで生まれた奴らはやたらと他人の私生活に干渉したがるふしがある。とくに男女の噂話には敏感だ。
「地元の人間は来ないスナックがあるけど、そこでいい?」
「はい、お願いします」