第57話
57.
店を出たところで優里に会った。
「あら、どうしたんですか?」
「いや、やっぱり、山本さんは苦手だなあ」
「何かあったんですか?」
「俺を隣に座らせて、ベタベタしてくるんだ」
「ふーん、モテモテなんですね」
「冗談はやめてよ」
「ごめんなさい。でも、前田さんと約束をしたんでしょう?だったらちゃんと使命を果たすべきよ」
「そうは言ってもなあ…。優里だって反対してたじゃないか」
「だったら断ればよかったんですよ。約束をしてしまったのだから、少なくとも恰好だけはつけなくちゃ。さあ、行きましょう」
優里は僕の腕を掴んで店に入って行った。
再び店に戻った僕を見て山本さんが駆け寄って来た。
「お帰りなさい…」
けれど、すぐに後ろに居た優里に気が付いて口を塞いだ。
「そこで会ったから連れ戻してきました。約束しておいて帰っちゃうなんて冗談じゃないですよね」
優里はそう言って僕を店に押し込んだ。その勢いで、山本さんを和夫の隣に座らせた。僕と優里は二人に対面して席に着いた。
それなりに盛り上がった。優里が来てからは山本さんも過剰な接し方はしてこなかった。和夫は終始、山本さんの隣でご機嫌だった。優里は山本さんをけん制しながら和夫にも気を遣っていた。僕には自分から特に話し掛けることもせず、聞かれたことにだけ答える様な他人行儀な態度だった。
山本さんも終始、笑顔でいたのだけれど、優里に対しては異様なほどの観察眼を発揮していたように思えた。
僕は優里が心配になった。僕とのことを邪魔したと思われて、山本さんの恨みを買ったりするのではないかと…。




