第54話
54.
優里の運命の人?この僕が?
高木の件で僕は噂話を真に受けて優里を信じきれなかった…。
優里は僕を買い被っている。こんな優柔不断な男のどこがいい?それとも、運命だからこんな男とでも我慢して付き合っているのか?優里の言う運命っていったいなんなんだ…。
そんな気持ちでいたものだから、あれから優里とは連絡を取っていなかった。連絡があったのは優里の方からだった。携帯電話に電話を掛けてきた。
『会えますか?』
「いいよ」
迷ったけれど、応じることにした。いつものスナックで待ち合わる約束をして電話を切った。
待ち合わせの時間より早めに店へ行った。ドアを開けると、カウンター席には既に優里の姿があった。
「早いんだね」
「はい。最近、貴志さんが構ってくれないので我慢できなくて…。お店が開く前からここで待っていました」
「そうなの?」
僕はマスターの方を見やった。マスターは黙って頷いた。店の開店時間からだと1時間は経っている。そのせいかどうかは判らないけれど、優里は少し酔っているようだ。
「信じてくれていましたか?」
いきなりそこを突いて来るのか…。僕は言葉に詰まった。見透かしたように優里は質問を変えた。
「じゃあ、質問を変えます。私のことを愛してくれていますか?」
「当たり前じゃないか。僕には優里しかいないよ」
「じゃあ、許してあげる」
優里は僕の方を向いて思いっ切り作り笑いをした。酔って愚痴を言う時によく見せる優里の作り笑いだ。どうやら、ストレスが溜まっていたのは僕だけじゃないようだった。
「寂しかったんだから…」
そう言うと、優里は急に泣きだした。そんな優里を僕は愛している。僕は優里の体を引き寄せてそっと耳打ちした。
「しようか?」
「はい」




