第53話
53.
高木は優里が何を考えているのかはともかく、一人で閉じ込もっていても仕方がないと考えたと言う。それで優里に会ってみることにしたのだと。
「俺が思った通りだったよ。女性にこんなに説教をされたのは久しぶりだった。説教をされているのに、なんでかとても心地よくなってね。俺は彼女のことを誤解していたのをすぐに謝ったよ。安西が彼女のことを好きなった気持ちがよく解かる。お前より先に俺が彼女と知り合っていたら…」
「ごめんなさい…」
高木の話を遮るように優里が口をはさんだ。
「ごめんなさい。それは無いのよ。黒木さんも素敵な方だけど、運命の人ではないし、その頃はまだ美由紀さんとお付き合いしていたでしょう」
「いやいや、解かってるって!考えてみると俺って、昔から安西が好きになるものを真似しているような気がする」
「言えてる!そう言われれば俺もそうだ。何しろ、安西は昔からセンスがいいんだよな」
相槌を打ちながら真柴が同調する。僕のセンスがいいと言うのなら、こいつらのセンスは最悪だと思った。逆にそんな奴らにセンスがいいと言われてもちっとも嬉しくなかった。
何はともあれ、僕の優里に対する不安はなくなった。
その後も4人でしばらく飲んだ。僕たちの学生時代の話に優里は耳を傾けては笑ったり、ツッコミを入れたりした。そして、黒木がふと呟いた。
「今後、お前たちがどうなるのか俺の知ったこっちゃないが、どちらかが不幸になるような決断はするなよ、安西」
「同感だね。菜穂子ちゃんもこの青山さんも素敵な女性だ。お前ばかりがこんなにいい思いをするのには納得いかないが、その分、責任は重いぞ」
真柴も黒木同様に思っているようだ。まさに二人の言う通りだ。僕の決断でどちらかが辛い思いをするようなことにはしたくない。
「大丈夫ですよ。私は今のままで。貴志さんが私のことを思っていて下さるのならそれだけで充分です。だから、誰かが不幸になることなんてないですよ。」
そんな風に話をする優里は微笑を浮かべている。その微笑みの奥にはどことなく悲しみが宿っているようにも見えた。僕は思った。僕が別れを切り出した時、菜穂子はどんな気持ちになるのだろうか…。




