第50話
50.
僕は迷ったけれど、優里の隣に座った。真柴は高木の隣に。
「で、今日はどういう趣旨なんだい?」
真柴が優里に声を掛けた。
「実は…」
僕は思わず耳を塞ぎたくなった。そんな僕を尻目に優里は話を続けた。
「…実は高木さんのことなんですけど、先日の件はとても反省しているようなので許してあげて下さい」
「許すも何も、虫の居所が悪いことなんて誰にでもあるさ」
真柴はそう言って、自分も以前、仕事で失敗してた際に高木に絡んだことがあると告白した。高木は神妙な顔つきをしていたけれど、優里は頷いて話を再開した。
「高木さん、婚約者が亡くなったのだそうです。このお店は彼女との思い出がたくさん詰まったお店だったから、あの日も気が付いたらこのお店の前に居たんだそうです」
意外だった。そんなことなどつゆ知らず、優里を取られるのではないかとむきになっていた自分が恥ずかしく思えた。
「そうなのか?どうして黙ってた?」
そう口にした真柴もきっと同じ思いなのに違いない。
「せっかくの楽しい席で、暗い話は申し訳ないと思ったから…。でも、楽しそうなお前たちを見ていたら、つい、自暴自棄になってしまって…。悪かった」
「だけど、なんで、青山さんがそのことを…」
真柴は優里の顔を眺めながら不思議そうに尋ねた。僕も同じように優里の顔を見た。
「最初は下心があった…」
口を開いたのは高木だった。
「…彼女は死んだ婚約者によく似ていたから。それに、菜穂子ちゃんと結婚しているのにもかかわらず、違う女性と付き合っている安西にも腹が立った」
「そっか!高木も菜穂子ちゃんのことが好きだったからな」
真柴がそう言ったけれど、僕はそんなこと、まったく知らなかった。
「実は俺も好きだったんだぞ。だから菜穂子ちゃんが安西を選んだ時は高木と二人で1週間くらいやけ酒を飲み続けたもんだ」
「知らなかった…」
「それ以来、高木さんは女性を避け続けていたのだけれど、美由紀さんと出会って運命を感じたんですって」
優里の口から“運命”と言う言葉が出て来るとそれは一層重みのある言葉のように感じられた。




