表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優里  作者: 日下部良介
5/75

第5話


 運命の出会いなんてものなどある訳がないと思っていた。今朝の出来事だって、ごくありふれた日常の一場面にすぎない。シチュエーションは色々あるけれど、そんな中の一つだったのに違いない。会社に着いた頃にはすっかり忘れてしまっていた。

 仕事を終えて帰って来た時、駅の階段の下でこちらを見ている女性が居るのに気が付いた。女性はともかく、彼女が乗っている自転車には見覚えがあった。きっと、誰かを迎えに来たのかもしれない。僕はそんなことを考えながら彼女の横を通り過ぎようとした。

「あの…」

 不意に彼女が発した声は僕に向けられたものだと思い、立ち止まった。

「今朝はありがとうございました」

「大したことじゃないですから。誰かを迎えに来られたんですか?」

「いえ、あなたを待っていました」

「えっ?」

「そろそろ帰って来るころだと思って…」


 窓から彼女が乗っていたオレンジ色の自転車が見える。僕たちは駅前の喫茶店に居た。

「どうしても、きちんとお礼をしたかったので」

「本当に大したことじゃないのに。だけど、僕もあなたにまた会えたのは嬉しいな」

 僕がそう言うと、彼女の顔が赤くなったように思えた。

「でも、もし、僕が残業とかで帰りが遅かったら会えなかったね」

「でも、会えましたよ」

「まあ、そうだけど…」

 ひょっとして、彼女は今朝の事で僕に一目惚れでもしたのではないか…。なんて、都合のいい考えが頭に浮かんだ。すると、彼女は小さな声で呟いた。

「運命だと思ったから…」

「えっ?」

「今朝、あなたに会えたのは運命だと思ったの」

「運命って…」

「お付き合いして頂けますか?」

 おとなしそうな顔をしているのに積極的な子なんだな…。僕はそう思った。

「お付き合い?申し訳ないけれど、僕には妻も子供もいるよ」

「携帯電話の番号とメールアドレスだけでも交換してもらっていいですか?」

「それくらいなら、かまわないけれど」

「じゃあ、お願いします」

 この時はまだ軽い気持ちだった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ