第49話
49.
優里は信じろと言った。だったら、僕は信じればいい。そう思ってはいるのだけれど、不安で仕方がない。不安なのは優里のことがと言うより、相手が高木だからだと言う方が正解なのかもしれない。高木は昔から手が早い。気に入った女の子には即、アプローチする。きっと、優里にも何かモーションを起こしているに違いない。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
和夫はチューハイのジョッキを持ち上げてニヤリと笑った。
「何をって…」
「うん、例えばアオちゃんにつきまとう野郎どもを脅してやるとか」
「なに、バカなことを言ってるんだ!俺はただ、彼女のことが気になったから、どんな子なのか聞いてみただけだよ」
「“子”って、お前、もういい年のババアだぞ」
「和夫!そりゃあ、言い過ぎぞ」
「まあ…。悪い。それを言っちゃあ、麻美ちゃんはもっとババアだからな。じゃあ、なんで俺にこんな話するんだ?」
「いや、だから、ちょっと気になっただけだから。もう、いいよ」
僕はそう言って席を立った。
「お前、マジで惚れちまったか?」
背中越しに聞こえた和夫の声に僕は耳を貸さなかった。和夫の話を聞いて余計に不安になった。
数日後、優里から連絡があった。先日、真柴や高木たちと会った店に来てほしいと。その店で会いたいということは高木のことで何か話があるのだろう。僕の不安はさらに増していった。
「ごめんなさい。私、高木さんとお付き合いすることにしたから」
そんなことを言われたらどうしよう…。憂鬱な気分で僕は店のドアを開けた。
カウンター席に優里と高木が並んで座っているのが見えた。僕は一度、ドアを閉めて深呼吸をした。覚悟を決めた。
「何やってんだ?こんなところで。早く入れよ」
真柴だった。どうやら、真柴も呼ばれていたらしい。いったいどうなっているんだ…。




