第44話
44.
高木が優理の肩に手をまわして顔を近付ける。
「青山さんだって、たまには違う男と遊びたいんでしょう?だからついて来たんだよね?」
「そんなことはないですよ。私だって家庭がありますから」
優理はのけぞるようにして反論する。
「おい!よせよ。お前、相当酔ってるぞ」
真柴がたまりかねて口を挟んできた。
「私は大丈夫ですから…」
そう言う優理の目が僕に助けを求めているようだった。僕は高木の腕を掴んで椅子から立たせた。
「いい加減にしろよ。酒に酔って女性に絡むなんてお前らしくないぞ」
「お前らしくないだと?お前に俺の何が解かるんだ!」
高木はそう言って僕の手を払いのけた。そして、ふらついた足取りでその場を離れた。
「安西、調子に乗るなよ。お前が不倫しているのなんかお見通しだ。菜穂子ちゃんに言いつけてやるからな」
出口へ向かう途中で振り向いた高木はそう毒づいて店を出て行った。
高木が出て行ってからしばらく沈黙が続いた。
「あの人何か嫌なことでもあったのかしら…。」
優理がぼそっと呟いた。
「どうして?」
僕が聞くと優理はこんな風に答えた。
「だって、とても悲しそうな目をしていたから…」
「真柴、お前何か聞いているか?」
「いや、俺は何も聞いてないけど…」
「もしかして奥さんと別れちゃったとか?」
山本さんが冗談めかして言うと、真柴はそれを否定した。
「確か、あいつ、独身のはずだけど」
「じゃあ、きっと彼女に振られたのね」
そう言うと山本さんはにっこり笑ってグラスを掲げた。
「寂しい人生に乾杯!」
その表情とは裏腹に山本さんは何か悲しそうだった。