第40話
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『会いたいな』
僕から誘うのは珍しい。優里からの誘いはいつも突然だし、遅い時間なので、正直なところ焦ってしまう。菜穂子が起きている時には出かける言い訳に苦労する。最近は何も言わずに出かけることも少なくない。遅い時間であっても事前に分かっていればそれなりの対応の仕方があるのだけれど…。
優里からの返信は相変わらずない。急な誘いだし、優里にも家庭の事情があるのだから、いつでもOKというわけにはいかないことが解かっているだけに、それでも仕方がないと思う。
『今からでも大丈夫ですか?』
返信があったのは夜の11時過ぎ。僕は諦めて寝室でベッドに潜り込んだ時だった。こちらから誘ったのだからダメだとは言えずに返事を返す。
『大丈夫だよ』
僕は着替えてそっと部屋を出る。居間でDVDを見ていた菜穂子と鉢合わせする。
「あら?寝てたんじゃないの?」
「うん、ちょっと誘われたから顔だけ出してくる」
「飲みすぎないでね」
菜穂子はそう言ってDVDに目を戻し、画面を見ながら笑い声をあげている。ちょっと顔だけ出すのでは済まないのだということを菜穂子は解かっているようだ。相手が別の女性だとは思っていないのだと思うけれど。
家を出ると僕は優里に電話をした。
「どこへ行こうか?」
『サークルに行きたいです』
サークルと言うのは僕の行きつけのスナックだ。地元の人間は来ない。
「いいよ。じゃあ、高速道路の下に居るから拾って」
JRの駅の方へ行く時は地元の地下鉄の駅や人通りの多い場所から離れたここで、どちらかがタクシーで拾うのが僕たちの移動手段になっている。
結局、明け方までそこで優里と過ごした。ひと月の間に2度ほどサークルへ行く。往復のタクシー代と合わせて、そこそこの出費になる。優里が喜んでくれるのなら安いものだと思う。