第39話
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僕の胸にうずくまるようにして余韻に浸っている優里の髪をそっと撫でてやる。上目使いに優里が僕の顔を覗き込む。
「なあに?」
「優里は可愛いね」
にっこり笑って再び僕の胸に顔を埋める優里。
店を出て交差点で信号待ちをしていた。優里は僕から少し離れたところで待っている。信号が変わって僕が歩き出すと、優里は少し離れてついて来る。横断歩道の前で停まっているタクシーの表示が目に入った。
“空車”
僕はそのタクシーを手招きした。そして、優里に合図した。
「行こう」
僕と優里はそのタクシーに乗り込んだ。乗り込むと同時に、優里は僕の手に自分の手を絡めてきた。
「いいんですか?」
「だって、したいんだろう?」
「はい!」
運転手がミラー越しにチラッとこちらを見たような気がした。
僕が疲れていると言ったので優里はずっと上になってしてくれた。終わってからそのまま倒れ込むように僕の胸に顔を埋めてしがみついてきた。僕は優里の体にそっとシーツを掛けた。そして、髪を撫でた。優里が上目使いに僕の方を見て「なあに?」と聞いた。そんな優里に僕は「可愛いね」と言った。
このまま眠ってしまいたいと思ったけれど、落ち着いてから一緒にホテルを出た。既に日付は変わっていた。
家に帰ると、珍しく菜穂子がまだ帰っていなかった。明日は休みなのでカラオケにでも行っているのだろう。近所のカラオケ屋は深夜2時までやっている。冷蔵庫から缶ビールを取り出した時、玄関ドアが開く音がした。
「あら、まだ起きてたの?」
「今、帰って来た。それより、菜穂子がこんな時間に帰って来るなんて珍しいね」
「うん。みんなでカラオケ行ってた」
浴室に向かう菜穂子に僕は「おやすみ」と声を掛けて寝室へ向かった。