第38話
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優里は本当に幸せそうな顔をして食べる。そんな優里を見ながら食べるラーメンはいつもよりずっと美味く感じる。
「菜穂子さんはとても優しいの。だから、辛いの」
「優しくしてくれているのならいいじゃないか」
「だって、私が貴志さんを取っちゃったから…」
「大丈夫だよ。菜穂子にはばれていないから」
「でも、いつかは言わなくちゃならないんですよ。だって、貴志さんは私と一緒になるんですから」
「そりゃ、そうだけど…」
自然と口にしていた。そりゃ、そうだけどだって?今、僕はそう言ったのか?僕の中ではもう、優里と一緒になるんだということを受け入れているということか…。いったい、どうなる?どうすればいい?
優里とはずっと一緒に居たいと思う。けれど、菜穂子とはそう簡単に別れられるものではない。20年も一緒に暮らして来たんだ。もはや、僕にとっては居ることが当たり前の存在でもあるのだから。それは、優里に対するものとはまた違うような気がする。その違いが僕にはまだ解からない。
そんなことにはお構いなしといった風に優里は僕と一緒になれることを楽しみにしている。本当に僕のことが好きなんだということがよく判る。また、そのように接してくる。
「優里とは一緒になれないよ」
僕がそう言ったら優里はどんな顔をするだろう…。
優里の声でふと我に返った。
「この後、しますか?」
「優里はするのが好きだね」
「するのが好きなのではないですよ。貴志さんの温かさに触れるのが好きなんです」
「うーん、よく解からないけれど、今日はゴメン。会社で色々あってちょっと疲れてるんだ。優里のおかげでだいぶ楽になったけどね」
「そうですか…。そうですね。いつも黙って付き合っていただいて、私の方こそ感謝してます。今夜はゆっくり休んでくださいネ」
そう言った優里の笑顔には本当に癒される。