第37話
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菜穂子が帰って来るのは11時過ぎだろう。バレーボールがある日はいつもそうだ。僕は冷蔵庫の中を眺めて適当に食材を取り出す。結衣との食事は途中でお開きになった。そのため、ビールを1杯飲んだだけだった。後味の悪い食事になったけれど、食べていないのだから腹はへる。
「さて、何を作ろうか…」
思案していたところに携帯電話が鳴った。優里からだった。
『何してましたか?』
「これからメシの支度をしようかと思ってた」
『まだ食べていないんですか?』
「うん、今、帰ってきたところだから」
『私もお腹がすきました。ラーメン食べに行きませんか?』
「いいけど、今日はバレーじゃなかったの?」
『はい。行ってきましたよ。今、終わったところです。』
「練習終わったら、みんなでお茶に行くんじゃないの?」
『私、入ったばかりだから、そういうのにはまだ馴染めなくて』
「そう…。僕でよければ付き合うよ」
いつもの中華料理店で僕は優里を待った。優里はすぐにやって来た。
「こんばんは」
いつもと違って、少し緊張した表情だ。
「どうしたの?」
「私、バレーボール辞めようかな…」
「どうして?」
「菜穂子さんと顔を合わせるのが怖いから」
「ウチのヤツが苛めるのか?」
「そうじゃなくて…」
「まっ、取り敢えず、何か注文しよう」
優里の気持ちはよく解かる。僕だって、優里の旦那が知り合いだったら、きっと、こんな風に優里とは付き合えない。そんなことを考えていると、メニューを眺めていた優里がはにかむような笑顔で僕の方に顔を向けた。そこにはもう緊張の色は見られなかった。そんな優里の顔を見ているとささやかではあるけれど、幸せな気持ちになる。
「何にするか決まったのかな?」
「はい!」