第34話
34
僕は向かいの席の結衣を見た。一瞬、目が合ったけれど、彼女はすぐにパソコンに目を向けた。結衣からのメールはこうだった。
『私が言ったとおりでしょう?安西さんは女子に人気があるんですよ。それよりも、今朝、あそこに行ったということは私に会いたかったからかしら?今夜お待ちしています』
こんなメールを寄越した割りにはそっけない。いつもの様に必要なこと以外は話し掛けてこない。
長く伸びた髪は後ろで束ねられている。身長は160cm前後、細身ではあるが女性らしい柔らかな体のラインに会社の制服はよく似合う。キリッとした目元をやや太めの眉が強調している。鼻は低くもなく高くもなく。薄めの唇は両端がキュッと上がり気味。美人というよりは可愛らしいという言葉がぴったりなのだと思う。
そんな外見とは裏腹に、社内では口数も少なくあまり目立たない。普通にしていれば、そこそこはモテそうなのだけれど、わざと男を寄せ付けないようにしている節も見受けられる。
彼女が入社して2年。ずっと僕の向かいの席に居る森井結衣の印象だ。
結衣が待っているといった店は会社から一駅先にあるホテルの地下1階に入っていた。昼間のうちに結衣が予約を入れていたらしい。僕が店に着くとレジに居た接客係の女性が席へ案内してくれた。結衣はまだ来ていなかった。僕はポケットからタバコとライターを取り出した。火を点けようとした時、人の気配がして顔を上げた。
「お待たせしました」
「えっ?」
髪を下した彼女を見たのは初めてだった。そのせいか、いつもと雰囲気が違う。可愛らしさに加えてドキッとするほどの色っぽさを感じる。メイクも少し直して来たのか…。
「どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない…」
「いつもと雰囲気が違う…。そう思ったのではないですか?」
「う、うん…。まあ…」
「こっちが本当の私。安西さんはどちらがお好みかしら?」
そう聞かれて僕の脳裏には優里の顔が浮かんでくる。比べるまでもない。彼女が今日、どういうつもりで僕に声を掛けたのかは判らないけれど…。




