第30話
30
改めて考えてみた。優里はいつも遅い時間に電話をかけてくる。家庭は大丈夫なのだろうか…。大丈夫だから外出して来ているのだろうけれど。今日の様に早い時間に電話をかけて来ることはめったにない。そう思うと、不意に口が開いた。
「珍しいね。こんな時間に電話をかけて来るなんて。子供たちの夕食とかは大丈夫なの?」
「今日は実家に遊びに行ってるんです」
「ご主人は?」
「主人は家では食べないので」
「そうなんだ…」
優里はメニューから目を離すこと無く答えてくれた。
「餃子と牡蠣のオイスターソース炒めを頼んでもいいですか?」
「いいよ」
僕はそれを注文した。同時に、先に頼んでいた飲み物が運ばれてきた。
「じゃあ」
そう言ってグラスを合わせる。
「奥さんと仲がいいんですね」
「ん?」
「よく一緒にお買い物に行かれるんですか?」
「ああ、今日はたまたまだよ」
「ふーん…」
自分から話を振っておきながら、優里は僕と目を合わせようとしない。
「ねえ」
「なんですか?」
「もしかして、ヤキモチ焼いてる?」
「いいえ。ぜんぜん!ただそう思ったから言っただけです」
最近、解かって来た。優里が僕の目を見ないで話をするときは甘えたいときのような気がする。おそらく、今日は僕が菜穂子と一緒に居るのを見てヤキモチに近い感情を抱いたのに違いない。
「可愛いね」
「何がですか?」
「優里は可愛いね」
「私、ちっとも可愛くなんかないですから」
言いながら、アヒルのように口を尖らせる。




