第28話
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久しぶりに菜穂子と二人で買物に出ることになった。近所のショッピングモールまで歩いて行った。目的は食料のまとめ買いと冬物の服を買うこと。
「先に服を見に行こうね」
菜穂子は遠慮なしに僕の腕に自分の腕を絡めてくる。まあ、悪い気はしない。
家着にするスエットをお揃いで買った。それから菜穂子はニットのセーターと温かいと評判の肌着を数着。僕は新しいジーンズを1本。
慣例ではあるけれど、荷物は全部僕が持つ。
食料品売り場に着くとカートの上下に買い物かごを一つずつ乗せる。野菜売り場から順に店内を回って行く。精肉売り場に差し掛かった時に菜穂子が思いついたように口にした。
「今夜はすき焼きにしましょうか?」
「いいね!」
「ちょっと奮発してもいいかしら?」
「うーん、まっ、いいか。たまには」
「やった!」
すき焼きの材料と冷凍で保存しておくための肉や魚を次々と買い物かごの中へ放り込んでいく。総菜売り場では色々な惣菜の試食コーナーがあちこちに出ている。
「あっ!これ美味しそう」
そう言っては一つまみ。そんなに食べたら夕食は食べられないんじゃないかと心配になるほど。
夕食時とあって、レジはどこも混みあっていた。並んでいる人のかごの中を確認して早そうなところに並んだ。料金を支払って買ったものを袋詰めする。荷物を持つのは僕の役目。
「大丈夫?」
「大丈夫!」
「じゃあ、これは私が持つね」
そう言って菜穂子は衣類の袋を手に取った。
帰り道。向こうから自転車に乗って来る女性に目が留まった。彼女はすれ違いざまに軽く頭を下げた。菜穂子はそれに応えて手を振った。
「青山さーん!」
優里の笑顔は少しばかり引き攣っていたように思う。