第26話
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僕はメールの画面を優里に向けた。
「えっ?うそ!」
優里は驚いて外の方に目を向ける。僕もチラッと店の外を見た。ドアのガラス越しに山本さんがこっちの方を覗き見ていた。
「どうしよう」
「どうもこうも、何も悪いことをしているわけじゃないんだから。そうだ、こういう事にしたらどう?」
僕は優里と菜穂子が同じバレーボールのチームだということを理由に以前から知り合いだったことで今日はバレーの飲み会の幹事を任されたから、そのことで相談をしていたということにしようと提案した。優里もそうしようと賛成した。
僕たちと目が合ったので、山本さんは店に入ってきて、僕たちの席にやって来た。そして、当たり前のように僕の隣に座った。優里の表情が一瞬、変わったのに僕は気が付いたのだけれど、優里はすぐに社交的な笑顔を作って見せた。
「お二人はこういう仲だったの?」
「こういうって?」
「二人でこっそり会うような仲ってことよ」
僕たちは目を見合わせて笑った。そんな演技をした。そこまで打合せをしていたわけではないのだけれど、自然にそんな風にすることが出来た。そのことに、多少ビックリはしたけれど、それはかなり効果的な演技だった。
「そんな風に見えます?だったら、嬉しいな」
僕はわざとそんな風に言った。
「私、安西さんの奥さんと同じバレーボールのチームなんですよ。だから、以前から親しくさせてもらってるんです」
優里は僕の言葉を茶化しながら、ごく自然に山本さんに話した。なかなかいい演技だ。
「ふーん…。じゃあ、この前、会った時にそう言えばよかったじゃない」
「この前?ああ、あの時ね。あの時は青山さんが早く帰ったし、そんな話をする機会も無かったじゃないですか」
「じゃあ、別に特別な関係ってわけじゃないのね」
「特別な関係?うーん…。ある意味特別な関係かな」
「えっ?どういうことかしら?」
僕の言葉に山本さんが目を輝かせている。逆に優里は少し不安な表情になってきた。