第25話
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優里の話とは山本さんのことだった。僕が現役でPTAの役員をしていた頃のことなどを長く本部に居るお母さんたちに根掘り葉掘り聞いて回っているのだという。一部のお母さんたちの間では、山本さんと僕が付き合っているというような噂まで出始めているのだということだった。
「貴志さんに限ってそんなことがあるわけないのは私がいちばんよく知っているから、私はまったく取り合っていないのだけれど、最近、和夫さんの機嫌が悪いみたいで…。まあ、貴志さんには迷惑な話かもしれないけれど、私にしてみればいいカモフラージュになるかなって」
優里はあの後も僕が山本さんと会ったのは知らない。別に知られたとしても何もやましいことはないのだから気にすることも無いのだけれど、今にして思えば、あの時、きちんと断っておいた方が良かったのではないかと思ってしまう。
「僕の何がそんなに気に入ったんだろうね」
「まあ!貴志さんったら、他人事みたいに言って!貴志さんって、自分では気が付いていないのかもしれないけれど、とても素敵な男性だと思うんですけど。この私がこんなに好きになってしまったんですから。私、いつもビクビクしてるんですよ。他の人に貴志さんを取られはしないかって」
「僕と優里は運命なんだろう?だったら、誰が何をしたって僕たちは離れたりしないよ」
「本当に?」
「だって、運命なんだから」
優里の顔に安どの色が浮かんだ。そして、恥ずかしそうに下を向いてから上目使いに僕の方を見た。こういう仕草は菜穂子には見られない。僕が優里に魅かれるのはこういう所なのかもしれない。
「僕だって心配だよ。PTAなんてやっていたら、みんなが優里にちょっかいを出して来るんじゃないかってね。そういうのが目当てで役員になる男性保護者も居るからね」
「ウソでしょう!だって、みんな子供が居るお父さんたちだよ」
「お父さんだって男だよ。それに、お母さんだって女だし。優里だって旦那さんも子供もいるのに僕と付き合っているだろう?」
「うう…。それを言われると…」
「少しは罪の意識があるんだね」
「それは違うわよ。私は悪いことなんかしていないもの」
その時だった。僕の携帯が鳴った。メールだ。山本さんから…。
『見ちゃった!今、お店の外に居るのよ』