第23話
23
その後も同じ番号で着信があった。僕は敢えて出なかったけれど、菜穂子が不思議そうに見ていた。
「出なくてもいいの?」
「知らない番号だし、面倒くさいよ」
「そんなこと言って、また、夜中に出て行くんじゃないの?」
「それとこれとは関係ないよ。あれは和夫辺りが酔っぱらって誘ってくるんだから仕方ないんだ」
「でも、履歴が残ってないじゃない」
「履歴って…」
「見られてもいいように消してるんだろうけど、出かけた時の前後の履歴がすっぽりないでしょう。それって、ヤバイのを自白してるのと同じよ」
なんてこった。優里とのやり取りは直後にすべて消している。優里がそうして欲しいと言ったからだけど正解だった。ヤバいと思われたのは痛いけれど、相手が優里だとは知られなかった。
「考えすぎだよ」
「まあ、どうでもいいけど…」
その時また携帯が鳴った。今度は和夫の名前が表示されていた。
「貴志か?ちょっと来ないか?麻美ちゃんと一緒だから」
「気が乗らないからやめとく。それに二人の邪魔はしたくないから」
僕はそれだけ言うと電話を切った。
「あら、出かければいいのに」
テーブルに頬杖をついて僕の顔を見上げている菜穂子は妙に色っぽい。こういう顔で見つめられたら、たいていの男は惚れちゃうんだろうな。僕もそうだったから…。
一目惚れだった。
大学のカフェテラス。空いている席がそこしかなかった。
「そこ、いいですか?」
テーブルに両手で頬杖をついた少女が上目使いで僕を見上げた。ストレートの長い髪にきりっとした二重の目。少し厚めの唇。アヒルの様に唇を尖らせながら彼女は言った。
「ダメ!」
彼女はにっこり笑った。僕は一瞬で心を奪われた。




