第21話
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下心などはないよ。ただ、むげに断るのも悪いような気がしただけ。
『僕が役に立つとは思えないけれど、話くらいなら聞きますよ』
そう返信した。山本さんは僕の勤め先を聞くと、こっちの方まで出て来ると言った。僕は行き付けの居酒屋を教えて待ち合わせをすることにした。
彼女の前には既に生ビールのジョッキが置いてあった。半分ほど飲み終えている。お通しの枝豆の他に冷奴とさつま揚げが並べられていた。オジサンっぽい…。そう思ったけれど、もちろん口には出さない。
「オヤジみたいでしょう?」
そんな僕の心の中を見透かしたように山本さんは言った。僕は思わず苦笑してしまった。
「ところで相談とは…」
「いいの」
「えっ?」
「いいのよ。それは口実で、こういう風に安西さんと飲みたかっただけだから」
うわっ!優里の言った通りだ。こりゃ、適当にあしらって早く帰った方がいいな…。
なんで、こうなった…。終電も無くなった時間に僕は山本さんと二人でタクシーに乗っている。山本さんは僕に体を預けて眠りこんでいる。
「お願い、もう少し…」
そう言われると、どうしても振り切れない。結局、こんなことになってしまった。一緒に居る間はほとんど彼女が一人で喋っていた。挙句の果てに酔っぱらって眠り込んでしまった。僕が一番嫌いなタイプだ。
タクシーが地元近くまでやって来た。僕は彼女を起こすと、タクシー代を握らせて先に一人で降りた。ここからだと家までは歩いて20分程度か…。頭を冷やすのにはちょうどいいかも知れない。
家に着くと菜穂子がまだ起きているようだった。そう言えば、今日はバレーボール仲間の飲み会があると言っていたな。僕に気が付いた菜穂子が言った。
「ご飯は食べて来たんでしょう?」
そう言われれば、山本さんの相手をするのに精いっぱいで、大したものは食べていない。急に腹がへって来た。
「何かあるかな?」
「あるわけないでしょう!」