第16話
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和夫から電話があった。友達と飲んでいるから来いという。
店に行くと奥のテーブル席で一夫が手を揚げている。僕がその席に行くと隣に知らない女性が座っていた。
「紹介するよ。山本麻美ちゃん」
「こんばんは」
麻美と紹介された彼女が軽く頭を下げる。僕らと同じくらいの年齢に見える。
「どういう知り合い?」
「PTAのお母さん。友達に俳優みたいな男前のヤツが居ると言ったら、是非、会いたいって言うから」
「僕が俳優?ずいぶん持ち上げてくれたね」
「そんなことはないですよ。和夫さんのおっしゃる通り、とても素敵です」
「そうですか?そんなお世辞を言っても何も出ませんよ」
「なんだ、何も出ねえのかよ」
和夫が言った。多分、和夫は今日の持ち合わせがあまりないのだろう。だから僕に声を掛けたのに違いない。いつものパターンだ。
和夫は子供の通う学校でPTAの役員をやっている。彼女もそうなのだろう。僕も子供が学校に通っているときは多少のことはしたけれど、最近の学校やPTAの関係者にはほとんど面識はない。和夫とはここに引っ越して来た時からの付き合いだが。
しばらくすると、もう一人、男が合流してきた。やはり、PTA関係の知り合いで横井義輝というのだという。
「どうも!」
彼は僕の顔を見て訝しげな表情をした。
「和夫さん、この人は?」
和夫は彼に僕を紹介してくれた。
「安西さん、どこかでお会いしました?」
「ん?僕は初めてだと思うけど…」
「そうですか。どこにでもいそうな顔ですもんね」
横井は明るく笑いながらそう言うと、時計を見て呟いた。
「そろそろ、アオちゃんも来るはずだけど…」
ちょうどその時、店のドアが開いた。
「遅くなってすみません…」
聞き覚えのある声…。優里の声だ。優里は背を向けて座っている僕にまだ気が付いていない。




