第15話
15
優里はよく食べる。特に麺料理が好きなようだ。
「ねえ、これ注文してもいい?」
「いいよ」
「あ、これもいい?」
「いいよ」
「うーん、これも美味しそうだなあ…」
「なんでも好きなものを頼めばいいよ」
「本当?じゃあ、これもいい?」
「いいよ」
嬉しそうな優里の顔を見ていると、僕も楽しくなってくる。結局、優里は焼き餃子、黒酢の酢豚、エビと豆腐の塩炒め、春雨サラダを注文した。
「今日は麺はいいの?」
「麺は最後です」
優里にしてみれば僕も食べるのだと思っているのかもしれないけれど、生憎、僕は食事を済ませている。そのことを告げると、「大丈夫!」優里はそう言い切った。
優里に会いたかった理由は特にない。とにかく顔が見たい、声が聞きたい、ただそれだけだった。美味しそうに料理を口に運ぶ優里を見ていると僕も幸せな気分になれた。時折り見せる笑顔がとてもキュートだった。お腹がある程度落ち着くと、優里は最近の出来事を話してくれた。仕事での愚痴が大半だったけれど、僕は酒を飲みながら、ただ黙ってそれを聞いていた。
「私ばかり喋っちゃってごめんなさい」
「いいよ」
僕と優里のデートは…。こういうのがデートと呼べるのかどうかはわからないけれど。だいたいこんな感じだ。
「お客さん、そろそろ、ラストオーダーですよ」
中国人の女性従業員が声を掛けてきた。
「五目あんかけ焼きそば!」
間髪入れずに優里が答える。
深夜2時半。この時間なら誰かに見られる確率は少ない。僕は優里をマンションの前まで送って行った。
「おやすみ」
「おやすみなさい」