第12話
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きっかけはやはり、体を交えたことだったと思う。何度か二人で会っているうちに自然とそういう流れになった。優里はずっと望んでいたようだったけれど、僕の方が二の足を踏んでいた。
優里が魅力的な女性なのは僕も認めていた。けれど、僕には菜穂子という妻がいる。好きで、好きでたまらなくて一緒になった相手だ。結婚してからもずっと彼女だけを愛してきた。他の人を女性として意識する事さえなかった。相手がそういう態度で接してくることも無かった。優里の様に妻帯者である僕に対してあんなアプローチをしてくる人など居なかった。それは驚きでもあり、発見でもあった。初めて菜穂子に会った時の様なドキドキ感が甦って来た。
優里の体が特別だということはなかった。けれど、その時点で、優里は僕の心を奪い去っていた。
「また、してくださいね」
「優里はいいの?こういうのって不倫になるのかな」
「まだですよ。だって、貴志さんはまだ私を愛してくれていないでしょう?だから、これはただの浮気」
「不倫も浮気も同じじゃないの?」
「不倫はお互いに心を捧げ合っていなければ。どちらかが遊びのつもりならそれは浮気」
「へー、そんな決まりがあるんだ」
「決まりじゃないわ。私の…。なんだろう…。まあ、言い訳みたいなもんかな」
「じゃあ、不倫かな。僕は遊びのつもりはないよ」
「だったら、すぐにでも奥さんと別れてくれるの?」
「それは…」
「だめ、だめ。貴志さんにはまだ不倫を語る資格はないわ」
「それって、すごい資格だね」
「そうよ」
こんなやり取りをした後にも優里は何度も何度も甘えてくる。まるで小さな子供みたいに。
今でも菜穂子のことは愛しているつもりだったのに、優里と一緒に居る時は彼女の存在すら忘れてしまっている。優里のことは菜穂子と一緒に居る時も意識のどこかに必ず置いている。テレビの子画面のように。けれど、そう簡単には別れるなんてことは出来ない。優里はどうして離婚したいと思ったのだろうか…。