第10話
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優里はしばらく考え込んでいたけれど、やがて首を振って言った。
「見られていることなんか絶対にない!」
「じゃあ、その彼が優里が朝帰りしたことを知っているとしたら、理由は一つしかないよね」
「主人が教えたってこと?」
「その人とご主人は面識はないのかな?」
「飲み友達だということは知っているけど、一緒に飲んだりしたことはないから実際に顔を合わせたことはないないわよ」
「僕が思うに…」
僕は優里から聞いた話を基に、ある仮説を立ててみた。それを優里に話してみた。
「僕が思うに、ご主人もその飲み友達も優里のことが好きなんだよ。だから、優里が気持ちを傾けている相手は共通の敵ってことになるのさ。その相手を優里から引き離そうと、共同戦線を張ったんじゃないかな?」
「まさか!連絡先なんて知らないはずよ」
「その気になれば、そんなものは何とでもなるよ」
「もう、イヤ!本当に別れたい…。そんなことするなんて信じられない」
「気持は解かるな」
「そうでしょう!だから、貴志さんも早く別れて下さい。私たち一緒になる運命なんですから」
「そうじゃないよ」
「何がですか?」
「僕が解かると言ったのは、ご主人たちの気持ちが。だよ」
優里は露骨に不満を表情に出した。そんな顔も可愛いのだけれど、僕は話を続けた。
「優里を他の男に取られたくないんだ。いくつかの危険分子があるのであれば一番大きくて危険なものを、まずは取り除こうとするのは生き残るための常套手段だからね。それさえ始末してしまえば後の雑魚はどうとでもなる。だから雑魚は雑魚同志で手を結ぶ」
僕の話を聞きながら優里は口を尖らせたままだ。
「バカみたい!雑魚は何人集まっても雑魚なのに」
「そんな風に言わないであげて。みんな優里のことが好きなんだよ」
「だけど、放っておいたら私が迷惑なんだけど!」
「だから、目立つようなことは控えた方がいいね」
「それはそうだけど…」
「大丈夫だよ。運命はともかく、今では僕だって優里を放したくないから」