Shakespearean Nights...
"Oh Romeo,Romeo,why does they name have to be Romeo?What difference does a name make?
It's you I love! You would still be you even if they name was different.
The flower we call a rose would smell just as sweet if it was called something else.
And Romeo would be just as perfect if he was not called Romeo."
─Shakespeare's Romeo and Juliet,The Garden of the Capulet Mansion,"Late Sunday evening"
まるで恋愛小説の甘い一節を唱えるように風が深まる。
まだ温かい紅茶にオレンジジャムを一すくい、愛しくスプーンをかたむける。
金色の小さなスプーンは紅茶色のカップの中で折れ曲がっている。
私は古書を片手に部屋を歩きながら愛しく語りかけた。
もちろんそんな甘い節を切に望む私のために。
「おぅ、ロミオ。ロミオ。どうしてあなたはロミオなの?名は何を表すと云うの?私はあなたを愛しているの。たとえばあなたの名が異なるものだとしてもあなたはあなただわ。薔薇は薔薇と云う名がなくとも甘く美しく咲き誇るはず。あなただってそう、ロミオなどと云う名などなくとも私の愛しきロミオ様そのものだもの!」
足よりほんの少し長い裾がまるで純白の花嫁のよう。
ゆっくりと歩く私の後ろをついてくるのだもの。
生きることは愛することだわ。
なんてありふれた台詞は最上級のごもっともだと、夜が来るたび思い深まる。
大地を濡らす冷たい雨も、
雨上がりの滴にきらめく陽の光も、
木々を激しく揺らし去る深風も、
静かにしんと深まる真白な雪も、
自然なるすべてのものが恋するもの愛するものなり。
真に思い、風が深まる。
私は歩きまわるのをそろそろやめにして、紅茶でも一杯どう?という提案にのることにした。
こんな素敵な提案は一体誰のものなのかは鏡に映った私だけの秘密ごと。
紅茶を味わいながらも胸は高揚するばかり。
それはそう。
「私はいま、生きているのだもの!」
そう自分自身で問い掛けてみたら不思議とみるみる気分が落ちついていく。
部屋の窓を揺らすのは深まる風のせいなの?
それとも愛しき来客の…
今度はティーカップを片手に、大切な本とともに窓辺に腰掛けた。
「いまごろあの人はどこに居てどんなことを想っているのだろう…?」
急に物語りの世界から引き戻されて廻りを見渡せば、何の欠片もないことにふいに気付かされる。
この瞳は必死で息をし、
この声は脈を打つ。
この耳は最後の一瞬まで響くように、
この胸で強く見つめている。
白く小さな手に掛かるカップをかたむけて…
おそらく最後の一口であろうその一滴に口づけを…
そうして夜は朝になる。