2夜 豚は鳴く、口先だけで
覗いてくださりありがとうございます。
主人公の言動に粗暴な表現が含まれますが、演出の一環としてお楽しみいただければ幸いです。
ーーっんだよ、コレェッ!
なんで消えてんだよオイ、神コノヤロウ!
訳わかんねぇ展開で変えられた体。
豚、っつうかワガママボディだろがっ。
自慢のシックスパックはパンパンのゴミ袋だし、股下は裾上げ何センチって話。
頼むって……マジで。
顔面は分かんねぇ。怖くて見れんし見たくもなぇよチクショウ。
(どうすりゃあいい?速攻でバックレたいが何も思いつかねぇ。)
明日処刑されるのがマジなら、今あるモノで勝負するっきゃない。
だが、圧倒的に情報が足りねぇ。分かってることは、クセェ場所で、死にかけてる、処刑前の豚ってことだけしか分かんねぇ。
さっき消えた神様の言葉を頼りに、オレはいじられた頭を捏ね始める。
インストールされたロクでもない記憶を掘り起こす為に、まずは「牢屋 場所 脱出」と検索してなにかヒットするかを試した。
すると一瞬、謎の映像が見えた。
『あの場所から忍び込んで、殺してやろうか。いや、流石に不味いか?』
そこから続く私怨ザ・ムービー。
やっぱダメだわコイツ。
ずっとイケメン君をヤる事ばかり考えててキモッ。
思い出補正かけた女もやたら現れる。
はぁ、無理だってその女は……。
ーーまず痩せろやデブが。
チッと舌打ちをし、短くなった脚を小刻みに揺らし、油臭が染み込んだ袖で額の汗を拭く。
ウンウン唸って考えてみるが答えはでねぇし、いま動かなきゃ間違いなくゲームオーバー。
もう、鉄格子の窓外は昼前のロータリーぐらい明るい。
(とりま、一か八か看守、買収してみる?)
なんでもトライしてかねぇとあっという間に明日になっちまう。
だからオレは着飾ってるアクセ全部外して兄ちゃんを呼んだ。
「おい平民!あっ」
……終わったじゃん。
まともに喋れなくなったのが脳から消えてたわ。
こりゃあもう無理だな……。
ーーふぬううんっ、ぐぅぅ!ふぐ、あ”あ”ぁーーブゴッ。
ダルイダルイダルイ。
どうするよ?おい、どうするっ!
そして「カチャリ」と聞こえる金属音に、一瞬で兄ちゃんがたどり着いちまう距離だと把握。頭をフル回転させる。
「なんだ豚」
あっさりと眼の前に到着して、目をひん剥いてやがる兄ちゃんとご対面。
ラッカーで顔に『ミンチにしてやる』と書いてらぁ。
これはつまり、アレだ。
もう言葉じゃ揺らせねぇ領域だから、言い訳は手仕舞って揺らす向きを変えたほうがいいだろう。
頭を秒でスイッチして俺は攻める方にシフトした。
「来るのが遅いぞ貴様。我が死刑囚だとしても未だ貴族の身だ。故に貴様のような平民が侮っていいほど、この国の身分は軽くないぞ?」
適当な言葉を吐く。と、同時に奴の全てを脳に焼き付ける。
答えは眼の前、一挙手一投足にぜってぇ隠れてるはずだ。
「まだ貴族のつもりか?あぁ?人間にもなれない豚が偉そうに」
「平民風情の考えなど塵芥と同じ。貴様がどれほど私を罵倒し、饒舌に語ろうと、そこは永遠に変わらんと理解しろ無能が」
「くっ、ははっ。はーはっははは!この豚、ホントに救えないな」
兄ちゃんが大笑いすると体が一瞬だけ左に流れた。
そしたら、腰の横にぶら下げた鍵みたいなヤツが振られて、チンと音を鳴らす。その甲高い音に目が奪われた。
「お前は、その、『お貴族様』によって、この場所に入れられたんだよマヌケ。どんだけ喚いても、もう遅い。お仲間は誰も助けに来ない。だから、お前がどうなっても、私が咎められることはない」
口元が引きつり下卑た目が俺を貫く。
どうせ断られんのは目に見えてるが、一応、『囁いとくか』?
それも織り込んで、もっと掘り下げとくのも悪かねぇだろ。
「貴様の考えなど、どうでもいい。それにーー」
外したアクセを床にばら撒いた。
「ほら拾え。お前が一生働いても買えることはない品だ。それを売って金に変えろ。その代わりに、貴様の『上官』を呼んできてもらおうか」
「……はぁ?」
そう言うと鎧野郎の口元が僅かに引き締まる。
「どうした……? 特段、深い理由はないぞ。お前の顔を見るのは飽きただけだ。だからさっさと」
言い終わる前に唾が飛んできた。
床に転がった指輪に向かって。
「いいか? よく聞けよ豚。俺は絶対にここから離れない。お前がみっともなく命乞いをし、引きずられ、断頭台で、ブーブー泣くのを見届けるまではな」
ゆっくりと柵に近づく鎧野郎の顔がほんのり赤い。若干目も血走ってる。
すかさず、俺も鎧野郎に顔を寄せると、目の奥を睨みつけて言ってやった。
「貴様、相当上から泣かされてる、みたいだな。哀れだ」
「一生ほざいてろ」
鎧野郎は鉄格子目掛けて拳を叩きつける。
車がクラッシュしたような音が飛んで、柵は火花を散らすと俺達の間を走り抜けた。
そして鎧野郎は奥に消えて、扉の開く音がすると気配がゼロになった。
ふぅー、見事にご破算だったな。交渉前に全部ブチ壊れたが……。
にしても俺の言葉勝手に変換されるハンデはキツイって。
ーーだが、首の皮一枚ってところか?
床に散らばるアクセを指で転がす。
状況は悪りいが、種は育てた、やることやった。『無力なデブを完膚なきまでに論破したった』とか、思ってくれてたら最高だわ。
(はんっ、あんなデカい隙みせてちゃ、夜の街じゃ通用しねぇがな)
「……あいつ、自分の『ボロ』に気付くか?」
掘ったデケェ穴は気づかれたら終いの代物だ。
伸るか反るか……。
まぁ、なるようにしかならんか。
つか腹減ったんだけど、そろそろ飯だろ?
ご精読ありがとうございました。 『面白かった』と思っていただけた方や、『続きが気になった』方は、ぜひ評価ボタン(★★★★★)の方をよろしくお願いします。
皆様からの評価が、何よりの執筆の励みになります。 「評価してやってもいいぞ」という方は、ぜひポチッとよろしくお願いします。




