第3話 ごっこ以前(3)
「僕のおばあちゃん、もう亡くなってるんだけどね。そのお婆ちゃんの生まれ変わりなの、僕」
「生まれ変わり?」
「うん。絶対そうだと思う」
決して冗談ではなく、前世が自分の祖母であると主張する純衛は続けます。
「お婆ちゃんがJUNEの愛読者で、『生まれ変わったら男になって、JUNEみたいな恋愛がしたい』って思っていたらしくて、僕の母さんにも何度もそう言っていたんだって」
「それを純衛は本気にしてるというわけ?」
「うん。絶対そう。ちなみに僕のお婆ちゃんの名前は中島純子っていうんだ。僕の母さんは、お婆ちゃんの意志を尊重して僕の名前を『ジュネ』にしたかったらしいんだけど、父さんの反対もあって結局折衷案として、文字的に近い『純衛』にしたらしいよ」
真面目に語る純衛に、僕はただ相づちを打つばかりでした。
「俺は単なる同性愛者で、それ以上でも以下でもないけど」
「僕もそうだよ。前世の事だって、僕が思っているだけで証明なんてできないし。それに前世の記憶は全くないし」
「JUNEみたいな恋愛、まだしてないの?」
「うん。そもそも僕たちまだ高校一年生だから、大人と恋愛したら相手が犯罪者扱いになっちゃうんだよね。そこが悩みどころ。アプリで出会おうとしても年齢的に相手を警戒させちゃうし」
「まあそもそもアプリ規約違反だからね」
「うん」
「純衛は年上の人が好きなの?」
「どちらかというとね。そもそも年下は中学生になっちゃうし。JUNEとは愛する側と愛される側に明確に役割が分けられてて、僕は愛される側になりたいのです。そして愛する側の美青年からただひたすらに愛されたい。それが僕のお婆ちゃん、中島純子から続く切なる願いなんです」
「うーん、全然わからない」
「でも絶対に年上じゃないといけないわけでもないんだ」
「そうなの?」
「うん。『風と木の詩』の主人公セルジュと、相手のジルベールは同級生だから。でも同年代も見つけにくいんだよね。そもそも僕、同性愛者だって隠しているし」
「身近な所にはいないけど、ネット上だと周りにカミングアウトしてる高校生もいるみたいだけど」
純衛は突然眉間に皺を寄せ険しい表情になると、
「ダメダメ」
と言いました。
「なんで?」
「秘密の恋愛の方がJUNE度が高いと思うから。それから言っておくと倫、君は僕のタイプじゃないから」
「それなら俺も一緒だよ。純衛は俺のタイプじゃない」
「じゃあ僕たちは友達って事でよろしく」
純衛は笑顔で僕に握手を求めてきたので、僕も握手し返しました。
「倫も僕と一緒にジュネしようね」
「ジュネするって、どういう事?」
「ジュネみたいな恋愛をする事をジュネすると言います」
とっくに空になったカップを揺らし氷が音を立てます。
「なんか僕、千葉に来てからようやく本当の友達ができた気分」
「純衛、友達多そうに見えるけど」
純衛は履いているズボンを叩き芝を落としながら立ち上がり、
「ジュネのチャンスはどこに転がっているかわからないから、できるだけ周囲の皆と打ち解けようと努力はしてるよ。部活も入っていないからなおさら。部活、入るべきだったかな……」
僕も立ち上がり、二人でモノレールの千葉公園駅に向かい歩き始めました。
「そういや純衛の彼女って、同じ高校の子?」
モノレールを待つホームで僕は純衛に尋ねました。
「違うよ」
「本千葉高校の子。自宅に行った事あるんだけど、豪華なマンションに住んでる金持ちの家の女の子。早く倫も会わせたいな。マンションも千葉そごうにめちゃめちゃ近くて、やっぱ金持ちってすごいなって思ったよ」
「彼女の両親にも会ったことあるの?」
「うん。本気で付き合ってると思われてる」
「まあそうか。お互いカモフラージュならそうなるよね」
「彼女と、正確には彼女役の子と、二人で周囲を騙している感じで少し罪悪感はある」
「わざわざ彼女つくらなくても良かったんじゃない?」
「うーん。そう言われると何も言い返せない……」
駅のホームにモノレールが到着した。
中には既に同じ高校の学生達が乗っていたため、僕たち二人は会話を中断し千葉駅まで一駅の間、無言で外の景色を見つめていました。
千葉駅に着き、モノレールからJRに乗り換えるための通路を歩いていると
「倫はBL読んだりする?」
と質問してきました。
「全然読まないからどんな作品があるかわからないよ」
僕がそう答えると純衛は、
「今度アニメイトかおっきい本屋に一緒に行って物色してみようよ」
と言ってきたので僕は、
「周りの目とか気になるから、機会があったら今度ね」
そう答えました。
中島純衛という少年と初めてしっかり話をしてみて感じたのは、彼が非常に危うい思想を持つ少年であるという事でした。
彼の友達になったからには、彼におそらく迫り来るだろう魔の手、具体的に言うと若者に手を出そうとしてくる危険なおじさん等、そういった存在からきちんと彼を守る必要があると僕は感じました。
JR千葉駅の中央改札まであと少しという所で突然、純衛が立ち止まりました。つられて僕も立ち止まると、
「倫、僕と一緒にジュネ部をつくろう」
と言いました。




