1.
鬱蒼と生い茂る樹木に左右から圧迫され威嚇されながら、寂れた街道を進む。
人力車の旅は、今日も順風満開だ。
うん。
ゴスロリ衣装を纏う凄腕魔術少女のエイプリルちゃんと、クールビューティな技巧派剣士のアーヤさん。
この二人の掛け合いも、通常運転で滞りなく進行中。
そう。絶好調、という奴だね。
はっはっはっはは。
残念ながら、目に優しい美少女たちの語らう姿は、俺の背後で展開されているため見えない。
が、しかし。キャピキャピとした音声だけはしっかりと届き、俺の耳を和ませてくれている。
俺は、今日もまた、人力車を牽く車夫として健やかに汗水流して働いているのであった。
いや~、世の中は平和だなぁ。
…と、思ったら。
何やら、遠くで、喧騒が…。
何だろ。剣戟と破壊の暴力的な連続音が、微かに聞こえてくる、ような気がする。
あちゃ~。しまった、な。
フラグを立ててしまった、ようだ。とほほほほ。
うん、これは...俺でも分かる、それなりに大規模な戦闘の気配。
そして。俺がそうと気付いた時には既に、後ろの美少女二人は、臨戦態勢に入っていた。
ほんわか雰囲気は霧散。
キリリと背筋が伸びて、ビシッと空気が引き締まる。
「エイプリルちゃん、行くよ!」
「はい、お姉さま!」
俺が支える人力車に、ぐぐっと軽い負荷が掛かる。
荷台が蹴られ、人が飛び出し頭上を飛び越えていく気配。
ストンと、抜身の刀を片手に持った美少女剣士が、前方に着地。
間髪入れず、不穏な雰囲気を色濃く纏うゴスロリ少女が、ふわりと続く。
かと思ったら...おや、まあ。あっという間に、みるみる二人の背中が遠ざかっていった。
爆速って奴だね。
うん、うん。若者は元気だねぇ…。
って言うか、俺も若者、なんだけどね。一応は。
ははははは...はぁ。
仕方がない、なぁ。
あの二人には遠く及ばないが、まあ、俺でも、状況によって猫の手レベルには役立つだろう。たぶん。
という訳で。
俺は、荷台が空になった二人乗り人力車を引っ張り、彼女たちが消え去った方面へと急ぎ向かうのであった。
* * *
眼前には、地獄絵図が展開されていた。
修羅場だった、本物の。
見渡す限りに散乱する数えきれない程の、損傷が激しい魔物の死骸と人の遺体。
激戦というか総力戦が繰り広げられた形跡も生々しい、壮絶な光景。
目に見える範囲内のモノは全て、破壊の限りが尽くされ、死屍累々の凄惨な状況が満ち溢れている。
そんな悲惨な風景の中に一箇所、スポットライトが当たったかのように、キリリとした清涼感を醸し出す場所があった。
戦う美少女剣士と、バックアップするゴスロリ魔術師少女。
さらさらストレートの長い黒髪を後頭部の少し高い位置で束ね、小柄でスラリとした体形に飾り気のない質素なワンピースを纏い、その腰に年季の入った古い刀を佩く美少女が、一際に大型の凶暴な魔物と対峙し。
その後方で壮絶な笑みを浮かべ宙に浮きながら剣士と魔物の一挙手一投足を俯瞰し的確に干渉する、少しスカート丈は短めなだがシックで豪華なヒラヒラしたメルヘンチックな独自の世界を構築する女の子憧れのキラキラなカスタム製造の超高級で豪華な衣装を装備した魔術師の少女。
この二人の近辺だけ、別世界だった。
美少女剣士なアーヤさんが刀を振るい、ゴスロリ魔術師なエイプリルちゃんが絶妙な間合いで術を行使。
巨大で凶暴な魔獣が、防戦一方となり押し込まれ、一方的に削られていく。
そして。徐々にジリ貧となり進退窮まった魔獣が、最後の足搔きを見せて…。
ズドドォーン、と巨体が倒れる。
やっぱり、アーヤさんの剣の腕前は、凄かった。
腹に響く効果音を伴って巨大な魔物の最後の一頭が倒れ、戦闘は終わった。
アーヤさんとエイプリルちゃんによる救援は、ギリギリで、それなりの規模がある農村を存亡の危機から救ったようだ。
破壊と屍の山が築かれた元は畑だと思われる平地の目と鼻の先には、頑丈そうな木製の柵で囲まれた集落が、ほぼ無傷で残っている。
兵力という観点での人的被害は致命的にも見えるが、人が住まう集落は物理的にほぼ無傷のようだから、当面の危機は去ったと言えるだろう。
だが。
う~ん。
この村、終わった、かな。
立派な体格と装備の強者っぽいオッサンが、満身創痍で右腕を失い既に事切れていた。
位置関係から察するに、このおっさん、アーヤさん達が駆け付けるまで凶悪な大型の魔物と対峙していたと思われる。
つまり。この村の主戦力でありリーダーと目される人物を、この戦いで喪失したという状況。
更に言えば。多くの戦力を失った村の戦闘力は大幅にダウンし、対外的にも抑止力を失って弱体化しているのは明らか、だ。
また。当然ながら、農作業という観点で重要となる労働力についても、今後は圧倒的に不足する事態へと陥ることは明白、だろう。
対魔物という観点での防御力の低下は、大きな課題になるだろう。が、それ以上に、保有戦力による周辺集落に対する牽制が利かなくなるのは致命的。間違いなく、近い将来に近隣の農村や街から食い物とされ、衰退する未来が目に見えていた。
そう。世の中は、諸行無常なのだ。
美少女二人の行為は間違いなく善行なのだが、それが感謝されるかどうかは相手次第。
はてさて。この結末は、どうなることやら…。




