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3.

 世間には、理不尽が満ち溢れてる。


 うん。

 やっぱり、今日も安定の諸行無常、だね。


「ほら、次は、日用品の補充ですわよ!」

「...」

「食料は、当然、明日の朝市で確保するのよ!」

「...」

「もう。従者たるもの、テキパキと働きなさいな!」


 安定の世知辛い世の中は、現在も絶賛続行中、なのであった。


 まあ。確かに、俺は、小間使い的に働く約束で、強者である美少女剣士のアーヤさんに同行させて貰っている。

 だから。そのアーヤさんと旅する為に必要な物資のお買い物をするのは、当然の役割であり不満など一切ない。

 けど。急に湧いてでたゴスロリお嬢様なエイプリルちゃんの雑用で扱き使われるのは、少し違うと思うのだよ。


 ん?

 違うよね?


 いや、まあ、ね。確かに、エイプリルちゃんも勝ち組っぽい。

 なんか金銭的には困って無さそうだし、高度な魔術で無双してそうな感じもする。

 それに。高飛車な態度に目を瞑り、よくよく見てみれば、容姿も整っていて可愛らしい女の子、だしね。


 単細胞な男なら、ガッツリ祭り上げチヤホヤするのも当然...かも?

 いや、いや、いや。そういう問題じゃない、よね。

 俺とエイプリルちゃんの間には、直接の雇用契約も師弟関係も無いんだからさぁ…。






 お洒落なカフェで楽しそうにお茶する、二人のお嬢様。


 うん。確かに、美少女剣士とゴスロリ美少女が朗らかにお茶する光景は、眼福、だ。

 が、しかし。

 しかしながら、本来であれば、さらさらストレートの長い黒髪を馬シッポにした美少女の隣でお茶をしているのは、俺の筈...な訳、無いわなぁ。


 とほほほほ。

 主に経済的な問題で、それ、あり得ない、よね。はっはっはっはは。


 現実は、厳しい。


 身嗜みを綺麗に整え贅沢な衣装を纏うゴスロリ少女なエイプリルちゃんは、この世界における強者、だ。

 一方で俺は、弱肉強食が推奨されて問答無用で実践される世界、即ち、強者と弱者の格差が明確でかつ巨大なこの近辺の人類社会において、明らかに弱者へと分類される。


 更に言えば。悲しいことに、俺は、その日の食料確保にすら四苦八苦する最底辺の生活から旅立ちを強行したばかりな為、貯えなどほぼ無い。

 そして。

 俺にとっては旅のパートナーである剣士のアーヤさんも、貧乏でこそ無かったものの裕福とは言えず、それ程は余裕があった訳ではない、のだ。


 つまりは…。


「エイプリルちゃん。これ、美味しいね」

「そうでしょう、そうでしょう!」

「あわわわっ。あれ、もの凄く綺麗だね」

「そうですわね...うん、お姉さま。あれも食べてみましょう!」

「ええぇっ。あれ高そうだよ、良いの?」

「はい、勿論ですわ。わたくしにお任せくださいませ!」

「ほわぁ…」


 と、まあ、そうなるよね。必然的に…。


 元は田舎暮らしだった一般人に、都会の煌びやかなカフェとそこで供される高価なスイーツの威力は強烈、なのだ。

 圧倒されて周囲の様子が見えなくなってしまうのも、致し方なし。


 そう。

 決して、アーヤさんが無慈悲で冷酷な非人間という訳ではない。

 ただ単に、極度の視野狭窄に陥っていて、エイプリルちゃんによる俺の雑な扱いに気付いていないだけ、だ。たぶん。


 まあ。俺には、あの空間に割り込むような根性など欠片も無いので、このままスルー、の一択なんだけどね…。




 * * *




 荒野のド真ん中でゴスロリ少女と遭遇し、本日の目的地に間近な街道で爆走武装集団とすれ違い、当初の目論見通りに生まれ故郷の農村的な町から一番近い都会であるこの街に到着。


 当然ながら、先立つモノがないので安宿になる。

 が、アーヤさんの為に奮発して個室は確保すべし、と考えて行動を…。


 と。俺が心積もりしていたら、問答無用で、高級宿に従者部屋付きの一室を手配させられた。エイプリルちゃんに。


 お金持ちのスポンサー様、バンザ~イ!


 うん。美少女剣士のアーヤさんの横に、俺、必要なくない?

 いや、いや。

 例えゴスロリ魔術少女なエイプリルちゃんが圧倒的な強者だったとしても、手足となって働く従者の需要はある筈。

 そう。濃くはないけど一定の関りもあって信頼できる人物としての実績が多少ある俺は、使いが手が良い、筈だ。たぶん。

 お払い箱にならない、よね?


 早速、存在意義の危機、に俺は直面していた。


 村を出立して然程は日数が経たないこのタイミングで、早くも存在意義が揺らぐ、とは想定外。

 いや、ホント、困った。


 まあ、荒野に一人で放り出された訳でもなく、大きな街には既に到着しているので、直ぐに生命の危機とまでは行かないが...死活問題、ではある。

 伝手も資金も経験も得られていない現状で、高度な技能など何も無い俺が、この街で自立するのは容易ではない。というか、路地裏に巣食う浮浪者へと一直線、のような気がヒシヒシとする。

 しかも。都会の底辺社会の中でもその最底辺に位置付けられる可能性、大、です。ほぼ当確、ですね。


 という訳で。ここは、俺の根性をみせる場面、だよね?


 けど、まあ。

 媚びを売ったり胡麻を()ったりするのは不得手なんで、成果が得られるかどうかは微妙、なんだけど…。とほほほほ。


 兎にも角にも、ただ只管に肉体労働!


 二人のお嬢様が乗ってきた人力車は、宿の裏にある馬車止めに移動させようと引っ張って宿横の路地に入った途端に、忽然と消え。

 二人のお嬢様の荷物持ちをしようにも、唯一の荷物である美少女剣士なアーヤさんが故郷から持ち出してきた極僅かな物品の入った頭陀袋は、ゴスロリ魔術少女なエイプリルちゃんにより亜空間収納(?)に突っ込まれて消滅。

 二人のお嬢様について入った超高級宿では、宿泊手続きから従業員への指示まで全てエイプリルちゃんの独壇場となり、貧相な身形(みなり)の俺は存在をスルーされた。


 あれよあれよと流され続け、気が付くと俺は、宿の食堂で美味しい晩餐のご相伴に(あずか)っているのであった。


 エイプリルさま、ご馳走様です!


 って。いやいや、いや。

 これは、不味い。拙いです。

 マジで、存亡の危機でした。


 控えめな笑顔を浮かべ、恐縮して小さくなり、私は空気と心の中で念じながらも全力で頭脳を回転させる。


 何とか、俺の存在意義を確立せねば!


 俺は今、エイプリルちゃんの言動や反応に全神経を集中して注視し、細やかな配慮と素早い行動で、寡黙に働き役立つ雑用係に徹するのであった。

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