4.
なにこれ、パラダイス?
いや、まあ、ね。
俺の趣味じゃあないけれど、世の男達にとっての桃源郷が、目前に展開されていた。
うん。酒池肉林ならぬ、リアルなハーレムって奴だね。
モデル並みに長身の美女さんから、少し小柄な美少女さんまで。
ほっそり系から、ふんわり系。
全てを網羅した、各種の、ボン・きゅん・バンな、お見事な体形の女性たちが、いっぱい。
美女たちで構成される華やかな軍団が、広々とした豪華な一室に、所狭しと屯していた。
もわっとした熱気と言うよりムンムンとした桃色の熱視線とでも言うべき何かが、全域からほぼ一箇所に向かって集中照射されている特異な場所。
それが、ここ、白い歯キラキラな爽やか体育会系の美青年であるアレクセイ氏が住まう、豪華な高級宿の一室であった。
そんな桃色熱視線を現在進行形で集めているアレクセイ氏が、ドヤ顔で俺に話を振ってくる。
「カイトくん、どうだね?」
相変わらず、脈絡がない。というか、俺には付いていけないノリ、での話の展開。
何なんだろう、この人。
「いや、どうだねって...」
「良いだろう?」
「はぁ」
「最高だろう!」
「えっと...」
「この楽園こそ、カトリーナ嬢に相応しい場所だと思うだろ!」
「...」
「ここに加わるのは、彼女の為なんだ!」
うん。やっぱり意味不明だった。
と言うか、何故、俺はここに居るんだろうか…。
「ここには、多くの見目麗しい美女たちが、楽し気に寛いでいる!」
「...」
「恰好イイ俺様と、この世の至宝であるナイスバディな美女たちが集う、極楽浄土!」
「ナイスバディな...」
「そう、この世の全ての男どもが夢見る、豊満ボディ」
「全員が、ボン・きゅん・バン、の?」
一瞬、アレクセイ氏のキラキラ放射が、止まる。
が、すぐに再起動。
「あ、いや...うん、まあ、その、なんだ」
間髪入れず自動復旧はしたものの、話の展開に無理があったと気付き、スローダウン。
先刻までの勢いは、いったい何処へいったのやら…。
在らぬ方へと視線をとばし口籠る、笑顔と小麦色の肌が映える肉体美を誇るイケメン氏。
うん。
カトリーナさんは、ゴスロリ魔術師であるエイプリルちゃんが信奉するロリ系の美少女、だ。
しかも。真正の正統派(?)であり、現在も変わらずに成長とは無縁な体型を維持している。
つまり。ボン・きゅん・バン、ではない。
慎ましやか・キュン・可愛い、である。間違いなく。
あ、いやいやいや。勿論、本人による公式見解という訳ではなく、俺がガッツリ見て測定した訳ではないよ。
うん。暗黙の了解、という奴だね。
ホントだよ!
ははははは。
* * *
高級品を微妙に成金趣味な感じで着こなした悪徳商人っぽい中年オヤジのデモストレーションに、胡散臭さ満載のキラキラ爽やかタイプの体育会系イケメンが乱入し。
収拾がつかくなっていた状況を、可憐な美少女である麗しのエカテリーナさんが断固たる態度と知的な微笑みでもって押し切り力技で強引に解散させ。
何気に紳士的な悪徳商人テイストなオジサンはぶつぶつと文句を言いつつも素直に撤退し、謎理論を展開する見ため爽やか青年であるイケメンさんは物理的な人流で押し流され締め出しとなり、本日の部はお開きとなった。
そう、なのだ。
エカテリーナ学園における本日の茶番も、やっぱり、時間になると粛々と終焉するのだった。
終了はしたのだが...何故だか俺も、運の悪いことに、退場する人の流れに巻き込まれ学園の門の外にまで排出されてしまっていた。
しかも。何がどう解釈された結果なのか不明だが、俺は、俺よりも断然に体格がよい笑顔のイケメン氏にガッチリと捕獲され、そのまま問答無用でこのハーレムへと連行されて来たのであった。
うん。意味わからん。
しかも、ナゼに俺だけ?
拉致連行される際には、イケメンきらきら美青年であるアレクセイ氏から謎理論の連射砲を受け続け、俺は唯々唖然とするだけで、全く以って一切の同意も合意もしなかった、筈なのだが…。
何が何やら訳も分からない内に、あの、アレクセイ氏が住まいとする豪華な高級宿の一室へと引きづり込まれてしまったのだが...いや、マジで、恐ろしい場所だった。
元から俺は、万人受けする美女の皆様、ボン・きゅん・バンなお姉さま方には、色々とトラウマがあり得意ではなかったのだが、最近はゴスロリ美少女であるロリ信仰な魔術師のエイプリルちゃんに毒されてしまったか、居心地の悪さが半端ない。
しかも。ビジュアル的には男性の理想郷そのものと称される情景なのであろうが、そこに漂うギスギスした空気と緊張感が半端なく強烈だった。
いや、まあ。この弱肉強食を是とする世界では、慣れ親しまれている日常的な雰囲気であると言えなくもないけど...う~ん、やっぱり、最近の俺は弛んでるのか?
と、まあ、そんな訳(?)で。
俺は、何とか隙を見繕って逃亡してきたのであった。
いや~、ナイスバディな美女軍団、怖かった。
まあ。そもそもが、ハーレムって奴には無理があるよね。
存在そのものも、維持することも。どちらも無理筋だと思う。
多くの美女に傅かれているイケメン氏はご満悦だろうけど、どう考えても美女の皆さんの方には不満が溜まる筈、だよね?
しかも。
自分に自信があって今までチヤホヤされてきた美女の皆さんが、その他大勢の中の一人として扱われて自尊心との折り合いが付く訳がない、と思うのだけど…。
あの謎理論と怒涛の勢いで強引に押し切り、甘い言葉とキラキラ笑顔などなどで誤魔化してきた。
といった感じなんだろうが、何事にも限界はある、よね?
その上で、今回は更に、だ。
この街では超有名人であり豊満ボディとは対極に位置することが知れ渡っている童顔の美少女カトリーナさんを新たなメンバーに加える、などという超弩級の爆弾を投下すれば、美女の皆様が疑心暗鬼に陥るのは必定、ってものですよ。はい。
という訳で。
追加でこそっと、一番でなくて良いの?等々と適当にお姉さま方を煽って各所で燃料を投下。
発生した混乱に紛れ、イケメンなアレクセイ氏のハーレムからの逃亡を無事に果たした、俺なのであった。
うん。当然、後のことは知らないよ!
あの歪なハーレムの関係者ではない俺は、念のためサクッと適度にランダム走行して足跡を誤魔化した後、とっとと定宿がある方角へと回頭し、質素で落ち着く自身の部屋への帰巣を目指して自らの足を進めるのであった。




