1.
ここは、天国だ。
美幼女ラブなゴスロリ魔術師のエイプリルちゃんにとっては…。
見渡す限りの視界に収まるのは、幼く可愛らしい少女たち。あんど、美少年たち。
ここ、カトリーナ学園の明るい教室には、美形の無邪気な子供たちが集っている。
過去と現在と未来に渡る段階的な成長の過程が一目瞭然で一望できる大中小と並ぶよく似た容姿の三姉妹は、カナのパン屋さんの名物売り子であるランちゃんとリナちゃんとルルちゃん。
キッチリ纏めた艶々ストレートの髪をショートカットにして小鳥の尾羽のような可愛らしいシッポを装備した幼げな少女は、街の繁華街にある大きな食堂にウエイトレスとして勤めるモカちゃん。
ルビー色の光沢ある髪と大きな瞳がキラキラと眩しい前髪パッツンと肩上スッパリ揃えたカットが特徴的な童顔の美少女は、カトリーナ学園の理事長さんと教師を兼任するカナさん。
そして。童顔の美少年も、各種の髪色で取り揃えられている。
あはははは。
三姉妹とモカちゃんは確実にエイプリルちゃんの獲物だけど、カナさんと美少年はターゲット外、かな?
カナさんことカトリーナさんは幼げな容姿の超絶に可愛い美少女だけど、たぶん、エイプリルちゃんや俺たちと同世代。
つまり。真正のロリータな幼女をこよなく愛するエイプリルちゃんの食指が動く範疇には、辛うじて(?)入らない。
ちなみに。まだまだ幼く可愛らしい美少年たちも、エイプリルちゃんの興味を全く引かないらしい。
お巡りさぁ~ん、ここに変態がいます!
と、通報する必要がないのは、全く以って幸いなことだった。
うん、うん。
この世界、男児も女児も、幼い間は美少年と美少女に満ち溢れているのだが...育つと、男の子は漏れなく世紀末な外観へと脱皮する。
いや、まあ。美青年や美中年も一定数は現存するようなのだが、力こそ正義なこの世では、どうもガチでムチムチな筋肉の信奉者へと成長し、下手すると世紀末ヘアーなゲテモノが量産される傾向にある、ような気がしてならない。
そう。美少年が成長すると、なぜだか大多数が、厳つい筋肉の塊や世紀末ファッションを愛好する奇抜な格好や容姿の男たちになる、のだった。
う~ん。気にせいだろうか?
単なる、俺の、独断と偏見?
ま、まあ、兎に角。
カトリーナ学園の教室は、今日も、眼福だけどキラキラしていて決して眼には優しくない素晴らしい光景が展開されているのであった。
* * *
平和ボケして不条理な暴力から絶妙に間合いを外し軽症に抑える生活の知恵的な必須技能を発揮できずに病院送りとなってしまった俺だったが、取り敢えず、パッと見は復旧して通常運転へと戻った。
まあ、痣のレベルでは色々と残っていて、動くと散発的に痛みが襲ってくる。のだが、その痛みに顔を顰めないよう注意しつつの、リハビリ訓練の途上であったりはするのだが…。
閑話休題。
本日から再び、俺は、カトリーナ学園の美少女と美少年がテンコ盛り状態の教室へと通って来ていた...訳なのだが、世の中、諸行無常が通常運転のデフォルトに指定されているようであった。
うん。あるあるなパターンのベタな展開、だね。
「おや、まあ」
「何の御用でしょうか?」
「おお~。これはこれは、かの有名な神童『カナちゃん』の成れの果てさん、ですかな?」
がははははっ、と一斉に大声でバカ笑いする三下さんも、いつの間にやら大量発生。
面白くもなさそうな表情で笑い声をあげながら周囲を威嚇する強面な筋肉野郎の集団に、震えあがるお子様たち。
そんな周囲の様子を睥睨し、満足そうにニヤニヤ笑う一筋縄ではいかなそうな細マッチョなおっさん。
うん。テンプレだよね。
裕福そうな身形ではあるがギラギラした貪欲さを隠し切れていない何となく毒蛇をイメージさせる酷薄そうな中年一歩手前の男が、知的な成人女性の雰囲気と庇護欲そそる幼げな美少女の容姿が見事に調和したカトリーナさんを、上から目線で威嚇する。
第三者視点で客観的に俯瞰すると、がめつい脂ぎった成金オヤジが屈辱に耐える可憐な美少女を虐める図、といった感じにしか見えない光景が今まさに展開されようとしていたのだった。
「いやはや。神童も、歳を取ったら唯の人、ですな」
「...」
「そろそろ、過去の栄光もその御威光も、賞味期限切れ。現実に立ち返るべきタイミング、だと思いませんか?」
「...」
「という訳で、お子様による学校ごっごも、もうお終いにしましょうか」
ドヤ顔を決める、悪徳商人っぽい細マッチョな中年オヤジ。
対して。
カトリーナさんは、またかと言いたげな渋めのウンザリ顔。なんだけど、なんか、可愛い…。
「ここは、あなた方のような人が来る場所では…」
「いや~、手間暇と経費は想定以上にかかってしまいましたが、街の顔役たちへの根回しは完璧に出来ました」
「はぁ?」
「苦労した甲斐もあって、我が商会の新規事業に、横やりを入れてくるような邪魔者はこの街には存在しません」
「...」
「ことを穏便に済まそうと、私が優しく話している内に了承した方が、身のためですよ」
カトリーナさんの可愛らしいお顔の眉間に、皺が寄る。
嫌な予感がする。と、カトリーナさんが呟く幻影が俺には見えた、ような気がする。
毒蛇を連想させる造りの顔面にニヤニヤ笑いを浮かべ、紳士っぽい下手の好い服装と微妙に成金趣味な高級アクセサリーを装備した中年オヤジが、意地悪そうにカトリーナさんを睥睨する。
はぁ…。
やっぱり、この世に楽園など存在しないのかもしれない。
生まれ育った村を発ってから続いていたっぽく見えていた俺の幸運も、一時的なモノだった?
もしくは、俺が調子に乗り過ぎて慢心した結果として何かのフラグを立ててしまった、とか?
とほほほほ。
俺と関わったが為に不運を呼び寄せてしまった、なぁ~んてカトリーナさんに記憶されるのは御免なので、これ、何とかしたい処だよね。しくしくしく。
はてさて、俺は、どうすれば良いのだろうか?




