2.
ゴスロリ魔術師のエイプリルちゃんは、神出鬼没だ。
そう。何処からともなく美幼女の気配を感じ取って現れ、美幼女に全生命を懸けられる人だ。
しかも。物凄い魔術を易々と操って、物理的に超強い。
更には。メンタル面でも負けなし、のような気がする。
だから。正直、心の隅っこの方で一寸ばかし、エイプリルちゃんの登場を期待した。
が、しかし。
そんな都合の良い展開には為らぬまま、俺は、プルプル震える小鳥の尾羽のような可愛らしいシッポを装備した小さな少女の傍へと到着してしまった。
うん。崖っぷち、って奴である。
はっはっはっはは。
はてさて、俺に、十分な時間稼ぎは出来るのか?
そう、なのだ。俺に出来るのは、あくまでも時間稼ぎ、のみ。
大変遺憾ながら、俺には、この色ボケしたボンクラ達を排除する腕力など無いのだから…。
とほほほほほ。
余裕シャクシャクな取り巻き一号から五号までの態度が、俺の不安を盛大に煽る。
が。たぶん、もう、この辺りが限界ギリギリな感じだから、もう少し様子見する、という選択肢はない。
はぁ~。痛いのは嫌だなぁ。
このお店に配備されている筈の警備員的なマッチョおじさん達が、悪意ある足止め工作を突破し、この事態に気付いて収拾を図るために駆け付けて来る。それまでの間、せいぜい頑張りましょうかね…。
う~ん。明日のお仕事に何とか出勤できるレベルの怪我で、収まって欲しいなぁ。
そう。
非力で特段の権力もない俺に出来るのは、頭の弱い暴君たちのサンドバックとなること。
格好良くはないし、慣れてはいても痛いものは痛いので、好んでやる事ではないけれど。
残念ながら、現在の俺には、他に選択肢がなかった。
ので。
諦めが肝心だ。さあ、張り切って、行ってみようか!
* * *
目覚めたら、美少女のドアップ。
俺の視界の全てを、凛々しい美少女のご尊顔が占めていた。
う~ん。
なに、これ、天国?
黒髪碧眼で新雪のような白い肌が眩しい、クール系の整った顔立ちの少女。
そんな、刀使いの美少女剣士なアーヤさんの顔が、目の前に鎮座していた。
呆けた頭でも分かる、眼福で、幸せな状況。
が...アッという間に、終了した。残念。
少し安堵したっぽいアーヤさんの憂い顔が、後退し、通常距離まで遠ざかる。
そんな光景をホケっと見ていただけだった俺の意識も、徐々に覚醒してくる。
そして。
俺は、自分がフカフカのベッドに寝かされている、という現状を再認識した。
うん。ダメな奴だな、これ。
意識が戻った途端、馴染みのある激痛が、ほぼ全身で個々に自己主張を始める。
そう。弱者には定番の、タコ殴りの集団暴行を受けた後の、満身創痍な状態。
はっはっはっはは。
いや~、暫くこの手の事態に縁のない幸運な状況が続いたので、耐性が落ちたかなぁ。
結構というか、かなり、厳しいモノがあるよね。
とほほほほほ。
「やっと、気が付いたね、カイトくん」
「ははははは」
メッと可愛らしいお顔を顰めて、今は腰に刀を佩いていない美少女剣士さんが、お小言モードに入る。
「撃退してしまっては駄目な相手だったんだろうけど、もう少し上手に避けなきゃね」
「...」
「位置取りも、良くなかったみたいだね。出来るだけ囲まれないように誘導しなきゃ」
「...」
「技量なし力押しだけの輩が相手の際には、急所を確実に外させる制御は必須だよね」
「...」
「カイトくん、本当は出来るくせに大事なところで手を抜くから、大怪我するんだよ」
ぷんぷん、と可愛らしく怒っているアーヤさん。
いや、いや、いや。買い被り過ぎです、勘弁して下さい。
何と言うか、ポジティブ解釈は有り難いけど、この程度は出来る筈という過大な評価は何処から来た?
まあ、生まれ育った村に居た時は、確かに、我ながら上手く集団リンチから逃れていた、とは思うけど…。
う~ん。やっぱり、感覚が鈍っているのかなぁ。
アーヤさんに、そこまで叱責されてしまうと、俺が怠惰に手抜きをしてしまったかのような気分になってくる。
けど、大変遺憾ながら、大怪我に至ったまでの詳細な経緯は思い出せないんだよなぁ。
この街の権力者に連なる立場にあるのであろう小狡い感じがプンプン漂う若い男とその取り巻き連中と相対し、街で人気の大食堂の可愛い小鳥の尾羽っぽいシッポ付き髪型の幼い美少女との間の諍いに割り込み、適当な口実を告げて何とかその場から美幼女を逃がし、ガラの悪い男どもを店の外へと連れ出した。
と、まあ、そこら辺りまで一応は覚えているんだけど...はて、その後は、どうなったんだっけ?
うん。やっぱり、思い出せない。
まあ。アーヤさんが泰然と構えていて、俺がぬくぬくとベッドで休息できている、という事は、俺が気を失った後に万事解決したんだろうねぇ…。




