1.
小鳥の可愛い尾羽。
うん。コンセプトは、これ、だよね。たぶん。
ショートカットで、キッチリ纏められた艶々ストレートの髪。
頭髪をキュッと一つに纏め、素朴な可愛らしい紐でしっかりと縛られた後頭部。
そんな後頭部の下方からピシッと生える、短いストレートの超まっ直ぐでバシッと綺麗に揃った幅の細いシッポ。
正に、そんなビジュアル。
なんだけど...う~ん、たぶん、俺がイメージした通りにはちゃんと伝わってない、よね?
言葉では伝え難い、この、何とも見事な造形と俺の感動を是非とも多くの人々と共有したい!
けど。俺の語彙力では…。
残念。
むむむむ。漫画でも描ければ、もっと容易に伝えられるだろうか?
いや。肖像画などの絵画でも、写実的な画法であれば何とかなる?
けど、まあ。この世に生を受けて今まで、漫画どころか絵画ですら、俺はお目に掛かったことなど無いけどね…。
はははは、はぁ。閑話休題。
まあ、何だ。
兎にも角にも、俺の目の前を、素晴らしい尾羽のように可憐なシッポが、クルクルと小気味よく躍動し行き来していた。
可憐な小動物のように愛くるしく動き回る可愛らしい尾羽が、楽し気に、舞うように、元気よく、俺の目の前を何度も通って彼方此方と行き来する。
うん。何というか、心温まる光景だよね。
一日の疲れも吹っ飛ばし、ほんわか気分を運んで来てくれる、まさに一流のエンターテイメントだった。
のだが。はぁ~あ。
この世は、やっぱり、諸行無常なのね…。
そう、なのだ。
大変遺憾なことに、どうやら、ここでもまた、何らかのトラブルが発生した、らしい。
俺には、可愛らしいモノを長閑に鑑賞する権利などない、ようだ。ホント、残念だよ。
特徴的なシッポを後頭部に装備する少し幼げな可愛らしい少女が、俺から数歩離れた場所で、予期せぬ災厄と遭遇し静かに震えているのであった。
街の繁華街、庶民と裕福な人との行動範囲の境目といった感じの場所にある、活気ある大きな食堂。
二階と三階には贅沢な個室や会合にも使える部屋がいくつか用意されているようなのだが、ここ一階では、ホールのような広いスペースに多くの大小様々なテーブル席やカウンター席が設けられ、多くのお客さんが賑やかに食事を楽しんでいた。
俺は、今、そんな人気のお食事処で、これまた好評だとお勧めされた日替わりランチを食べながら、このメニューを笑顔で教えてくれた美幼女から美少女へとの成長途上の可憐な女の子の可愛らしい尾羽のようなシッポを、楽しく目で追っていたのだが…。
はぁ、あ。
世の中には、無粋な輩が多い、よね?
ホント、嫌になるよ。
美味しいご飯は、楽しく食したいものだよねぇ…。
可愛らしい小動物のような幼い少女が、厳つい嗜虐的な表情が染みついた小悪人面の若い男およびその取り巻き連中に、因縁を付けられている。
うん。あれ、間違いなく、意図的かつ悪意と姑息な下心ありありで、難癖を付けているよね。
ついつい可愛いシッポに視線を惹きつけられていたので、残念ながら、決定的な瞬間は目にしてないのだけど...まあ、何処からどう見ても、理不尽かつ横暴な要求をしているって奴で確定だね。
本当に、人間社会って、嫌だよねぇ。
行き過ぎた成果主義が弱肉強食の肯定にまで行き着くと、ため息しか、出てこないよ。
はぁ、あ。
いや、ホントに。コツコツと慎ましく生きて平穏に暮らすのって、なんで、こんなにも難しいのかな?
アグレッシブに攻め続ける人生って、息切れしてアッという間に燃え尽きそうだと思うのは、俺だけ?
衣食住に困らず心身とも健康な状態で平穏に暮らしたい、といった願望は贅沢で叶わぬ定めなのかな?
と、まあ、論じても仕方のない思索への逃避を敢行していた訳だが…。
最終的には穏便に収まらないかなぁ、という俺の儚い願望と、悲しい現実。その間にある溝が、ドンドンどんどんザックザクと深く深ぁ~くなっていく目の前の状況に、俺は、とうとう諦めの境地へと至り、重い腰を上げざるを得ないという結論をくだす事態に相成った。
はぁ、あ。
俺って、颯爽と現れ悪者をコテンパンにする英雄には程遠いタイプ、なんだけどなぁ…。
どう見てもこの街の住民ばかりであろう周囲に居合わせたこの店の客たちは、報復を恐れてか明らかに空気と化している、よね?
こういう時に駆け付け揉めごとを解消させる為にいる筈のこの店の警備員的な人員が全く現れる気配がないのだけれど...ああ、取り巻き連中が浮かべるあのニヤニヤは、何らかの妨害工作が上手くいってるって事なんだろうな。
はぁ、あ。
気持ちの方は更なる現実逃避をしながらも、物理的には現場へと着実に接近していく、俺。
まあ、ね。いざとなれば、俺は、この街から脱出してしまえば良いだけなんだけどさぁ…。
「おいおい、どうしてくれるんだぁ?」
「も、申し訳ありません…」
「これ、お前の給料なんかじゃ買えない高級品だぞ」
「も、申しわ…」
「ああ、謝罪は良いんだよ。謝罪はね」
「あ、あの、本当に…」
「そう、そう。お前が誠意を見せてくれるなら許してやるよ」
「え、えっと、その…」
「ほら、制服は脱いできた方が良いんじゃないか?」
「えぇ?」
ちょこチョコと小まめに動いていた小鳥の可愛い尾羽が、フリーズ。
と同時に、一瞬の静寂。
可憐な少女の顔色が露骨に悪化したのか、クズ男のテンションが更にアップ。
顔面のニヤケ度が増強され、更に半歩、怯える少女との距離を強引に詰めた。
「俺の屋敷に行ったら、もうこの店には来れなくなるからなぁ」
「あ、あの…」
「店からの貸与品を勝手に持ち出すのは駄目だから、着替えるしかないよな」
「...」
「まあ。この店の制服は可愛いから、俺は、そのままでも良いけどさぁ」
「...」
「で、どうするんだ?」
「...」
「ほら、行くぞ。これを弁償できるまで、俺の専任にしてやるよ。嬉しいだろ?」
あちゃ~。これは、本当にダメな奴だ。
遺憾ながら俺はこの街の権力構造に詳しくないのだが、イチャモンつけている筆頭の男は、強力なバックボーンがあるっぽい感じがする。
しかも。威圧的な態度と筋肉至上主義な体格に嗜虐的な表情がセットになった小狡い感じが漂うこの若い男、女性を物扱いする暴君タイプの屑な人種のように見える。
うん。ロリータ至上主義を信奉するゴスロリ少女のエイプリルちゃんとは正反対の、悪い意味で幼女を愛でて消費するダメ男、でほぼ確定だろう。
誰が見ても、荒ぶる邪な感情のままに可愛らしい美幼女を毒牙に掛けようとしている、その直前という状況。
いや、ホント。
俺って、そんな熱血漢って柄でもないし、腕力で暴漢数人組を撃退できる訳でもない、んだけどなぁ。
はぁあ。
これ、見なかった事にしてそのまま放置したら、一生後悔する奴、だよねぇ。
しかも。美幼女ラブなエイプリルちゃんにバレたら、間違いなく叱責を受けるタイプの事案だよなぁ…。
俺は、断腸の思いで、間違いなく修羅場へと突入することになる最後の一歩を踏み出すのであった。




